冷酷社長の極上笑顔は私が独り占めさせていただきます
「行きたいです」
 
 古東さんは「よくできました」というようににっこり笑って、私のデスク上にチケットを置いた。
 
「自分で設計した劇場のこけら落とし公演だからもちろん観に行くけどさ、一人で行くのもちょっと気が引けるな、と思っていたから嬉しいよ。それじゃあ、当日は現地集合で」
 
 待ち合わせなどの面倒なことがないとわかって、私は心の底から嬉しくなった。
 
 古東さんが立ち去った後、思い切り表情を緩めてチケットを眺める。
 実は友達と行きたいと思っていたのに、誘ってみたら「あまり興味ない」とすげなく断られてしまったのだ。一人で行くのは少し勇気がいるな、と諦めかけていたところに、この話が舞い込んできて、こんなラッキーなことがあるだろうかと思う。
 
 しかも招待席だ。
 お金もかからない上に特等席に座れるなんて夢のようで、気分はふわふわと高揚していく。
 
 自分の鞄にチケットを大事にしまい、それから社長宛の封筒を社長のデスクへと運んだ。
 だけど社長のデスクは郵便物や書類などが山になっていたので、結局私のデスクの施錠できる引き出しに預かっておくことにした。

 

 翌日、古東さんから預かった封筒を社長に渡すと、気のせいかもしれないけれども、社長はほんの少しだけ表情を緩めたようだった。
 
「古東はすぐ帰ったか?」
「はい」
 
 社長は私の顔をまじまじと見つめてきた。疑うように顎を引き、少し上目遣いになる。私は思わず目を逸らした。
 
「えっと、古東さんにミュージカルのチケットをいただきました」
 
 これは正確な表現ではないな、と思ったけれども、間違いでもないと自分を励ました。
 しかし、社長にはごまかしが通用しなかったらしい。
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