冷酷社長の極上笑顔は私が独り占めさせていただきます

5 もうこの気持ちは隠しきれない

 退勤準備に時間がかかってしまったので、急いで会社を後にした。
 少し前に休憩室で聞いた話が心の片隅に引っかかっていたけど、これからの公演のことを考えると気分が晴れてワクワクしてくる。
 
 新しくできた劇場は会社から徒歩で二十分ほどの距離だった。
 到着して時計を見ると開演時間には十分な余裕がある。お腹が空くかもしれないと思ったので、ロビーで軽食を取った。
 
 開演時間が近づいてくると、周囲の人たちは場内へと移動し始めた。私はあまり早く席に着いているのも変かな、と妙な気づかいをしてしまい、自分の席に行くのを躊躇していた。
 でも五分前になると、さすがにロビーでじっとしていることができなくなってしまう。はちきれそうな胸のドキドキを抑えて場内へ足を踏み入れた。
 
 チケットの座席番号を確かめて階段をのぼる。
 二階席の一列目、舞台を真正面に臨む席だ。二階でも舞台が意外と近く感じられるし、全体の様子もよく見えた。
 開演前なのに私の興奮は最高潮に達し、心の中では「わああ!」とか「ひゃあ!」とか言葉にならない叫びが止まらない。
 
 隣はまだ空席だった。少し拍子抜けし、同時に少しホッとした。
 古東さんのことはよく知らないけど、彼には社長が心配するような変な意図はないと思う。
 
 そこで思考がピタッと止まった。
 
(あれ……?)
 
 社長は何を心配していたのだろう。
 私が古東さんの誘いに乗ったことにどうして怒ったのだろう。
 
(相手が古東さんだから話は別、みたいな言い方をしていたけれども、もしかしたら私が勝手に大丈夫だと思い込んでいるだけで、実は手の早い危険な男性だったりする?)
 
 幼馴染の社長が言うことだ。二度会っただけの私の判断より社長のほうが正しいに違いない。
 
 そう思うと急に不安が全身を駆け巡った。
 本当に私はここにいていいのだろうか。
 
 急に会場の照明が落ち、暗くなる。
 開演ブザーが鳴った。同時に列の端から身を屈めてこちらへ向かってくる人影が見えた。
 
 ――来た!
 
 心臓がドキドキする。舞台にわずかな照明がついた。その途端、私は「ええっ!?」と声にならない声を上げていた。
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