冷酷社長の極上笑顔は私が独り占めさせていただきます
「すまない。遅くなった」
「あの、えっと……古東さんじゃなくて……!?」
「古東じゃなくて悪かったな」
 
 私の隣に腰掛けたのは社長だった。
 社長は後ろの人を気にしてか、長い足を前に出し、座高を調節する。

 私は社長を凝視しながら、ぱちぱちと何度も瞬きした。
 
「どうして……?」
「君をアイツには任せられない」
 
 小声でそう言うと、私の顔を見て微笑んだ。それから舞台のほうを向く。
 私も社長から視線を引き剥がし、正面の舞台をまっすぐに見る。だけど頭の中は激しく混乱していた。
 
 これはどういうことなんだろう。
 ミュージカルが始まってしまったので、社長に話しかけることはできない。
 そのうちミュージカルの進行とともに、私の意識も舞台へと向いたが、頭の片隅では隣にいる社長のことがずっと気になっていて、どっぷりと物語に浸かることができなかった。

 
 
 終演後、私たちはしばらく立ち上がることができずにいた。
 しかも気まずいことに社長は黙ったままだ。
 私はどうしてよいのかわからず、困り果てて社長を見る。
 
「何か言いたそうだな」
 
 社長がやっと口を開いた。
 私は少し考えて、それから言った。
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