明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 将吾の瞳に映るのは、普段の玲子ではない。
 熱に浮かされ、無垢なままに誰かを求めようとする、危うい様子。 
 玲子の頬が紅潮し、息を乱す姿を前に、将吾は拳を握りしめた。

「玲子、どうしたんだ?」

「輝明さ……まに、頂いた……お菓子のお酒が……」

「叔父上から貰った菓子を食べてから、具合が悪いのか?」

 将吾の問いかけに玲子は頷く。

(叔父上……これが、あんたの“警告”か)

 叔父のにやけた顔が、脳裏に浮かぶ。  
 玲子を通して、俺を脅し、試し、嘲っている。

(望むところだ。玲子に手を伸ばしたこと……その代償は、決して軽くはないと知れ)

 叔父に対する怒りで、感情が沸き立つ。
 しかし、そのとき、腕の中で玲子がモゾリと身動ぐ。将吾はハッとして、玲子へと視線を戻した。

「玲子……大丈夫か?」

「しょ……ごさま」

 赤く染まった唇から漏れた言葉は熱を帯びている。
 その表情は、普段のつつましやかな玲子ではない。
 しっとりとした艶を放ち、その吐息は甘さを含んでいた。
 その艶めかしさに、将吾は思わず、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「なんだか……熱くて……」

 そう言って、襟ぐりを大きく開ける玲子からは、女性特有の花のような香りが立ちのぼる。
 薬の影響で、このような状態になっている玲子に他意はない。
 だが、まるで男を誘うような仕草だ。
 手を伸ばせば身を預けてくれるはずだ。
 でも、このような状態で玲子を自分のモノにしたなら、後々、後悔の嵐が吹き荒れるだろう。
 玲子から離れるのがお互いにとって、安全だと思った。

 だが、目の前で、縋るように自分に手を伸ばす玲子を、将吾は突き放すことなどできない。

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