明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 どのくらいの時が過ぎたのだろうか。ようやく、玲子の呼吸が落ち着いてきたのを見て、将吾はそっと腕を解いた。

「落ち着いたか?」

「……はい」

「そばに居る。だから、安心して休め」

 玲子を布団へと誘い、静かに寝かせる。

 守りたい。心から、そう思った。

 それはただの責任でも、家名のためでもない。

 玲子という、たった一人の人間を。
 将吾は、誰よりも大切にしたいと、強く、強く願ったのだった。

***

 静かな夜、玲子は寝具に横たわり、額には冷えた手拭いがのせられていた。
 蒸し暑さもなく、窓からは柔らかな夜風が入り込んでいるというのに、彼女の頬はほんのりと朱に染まっていた。

 部屋には、将吾と、藤堂家がかかりつけにしている初老の医師だけがいる。
 医師は脈を取りながら、静かに眉をひそめた。

「……熱は少しあります。それと、顔色と脈の乱れが……やや不自然ですな」

 それを聞いた将吾は、医師に場所を移す事を提案した。
 万が一にも玲子の耳に余計な話しを入れないためだ。
 応接室のイスに、向かい合うように腰をおろすと、将吾はおもむろに話し出す。

「実は、昼間、菓子を一口食べた直後に、こうなりました。外見には異常がなく、南蛮からの輸入品だったそうです」

 将吾は抑えた声で説明した。

 医師は「うむ」と頷く。

「……なるほど、強い精油が使われている菓子のようですな。
 恐らく、ごく微量ではありますが、興奮作用のある香草が含まれていたと見てよいでしょう」

「興奮作用……?」
< 154 / 234 >

この作品をシェア

pagetop