明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 玲子は紙束をそっと元に戻しながら、尚文へ問う。 

「輝明様は……一将様との仲はどうでしたか?」 

「親しいというか……昔から、輝明叔父さんは、お祖父様には特に忠実だったね。将吾の父が地方に赴任してからは、ほとんどの家政を任されていて、お祖父様からは信頼されていたと思う」 

 玲子は静かに頷いた。

『息子である輝明を信じ、家政を任せていたのだ。それに彼奴が世帯を持つ際にも不自由のないようと心を尽くしたのだが、もしかしたら、不満があったのかも知れぬ』
 

 たしかに、輝明は家を支えている柱の一人として尊敬されていたようだ。
 それは屋敷の使用人たちの態度からも伝わってくる。
 だが、あの時、あの目に映った「笑っていない瞳」が、どうしても頭を離れなかった。

「……何か、気になることでも?」

 尚文がそっと声をかける。玲子はとっさに微笑み、首を横に振った。

「いえ、なんでもありません。ただ、少し前にお会いした時のことを思い出してしまって……」

 言葉を濁した玲子に、尚文は深くは問わず、「無理はしないで」と優しく言ってくれた。
 けれど、玲子の心の中には、拭いきれない“ひっかかり”が残っていた。
 『分量を、倍に』
 誰が、その紙に書き足したのだろう。
 そして、本当にそれは“一将のため”の投薬だったのだろうか……?

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