明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
◇
その日の夜。
書斎に入った玲子は、何か言いたげな瞳で将吾を見つめていた。
「……将吾様。ひとつ、お願いがございます」
その声は、いつもより少しだけ緊張を孕んでいた。
将吾は手にしていた帳簿から顔を上げ、まっすぐに玲子を見つめる。
「……何だ。言ってみろ」
玲子は小さく息を呑み、胸元で手を組んだ。
「……お願いです。どうしても、確かめたいことがあって、菊屋薬舗へ参りたいのです」
その言葉に、将吾の眉がわずかに寄る。
『菊屋薬舗』は郊外にある薬種問屋だ。
ここ数日、玲子が書庫に籠り、何やら祖父に関する事を調べているのを知っていた。だから、その関連で薬種問屋に行きたいのだろうと察しがついた。
だが、今は騒動の後。
わずかでも玲子が危険にさらされる可能性があるなら、軽々しく「行って良い」とは言えなかった。
「……まだ、安全が確認できてない」