明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
将吾の声は低く、静かだった。
 玲子はすぐに察した。
 心配してくれているのだ。
 それでも、ここで引き下がるわけにはいかなかった。

「……我が儘を言って、すみません。でも……どうしても、確かめたい事があるんです。お願いいたします」

 玲子はぎゅっと膝の上で手を握りしめた。
 恐れる心を押し殺し、それでも前に進もうとする。
 その姿に、将吾は胸の奥が熱くなるのを感じた。
 しばしの沈黙ののち、将吾は静かに言った。

「わかった。だが、何故行きたいのか理由を知りたい」
 
 玲子は、ためらいがちに唇を噛み、やがて意を決したように声を発した。

「……将吾様。実は……お伝えしなければならないことがございます」

 将吾が帳簿を閉じ、真っ直ぐに視線を向ける。
「……何だ。言ってみろ」

 玲子は胸元で手を組み、震える声を絞り出した。

「……わたくしが菊屋薬舗へ参りたいのは……将吾様の叔父上、藤堂輝明様のことを確かめるためなのです。一将様に渡された薬の処方が、意図的に書き換えられていた可能性がございます。そして……その筆跡が、輝明様のものに似ておりました」

 その言葉に、将吾は深く息を吐き、肩を落とした。

「……やはり、そうか」
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