明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

  ふたりの背後では、一将が幽霊の姿で腕を組み、ふむふむと頷いていた。

『将吾。おぬし、もはや過保護が過ぎるでござるな……。だがまぁ、好きという心の表れ、良きことじゃ』

それを聞いた玲子の顔は、みるみる間にに真っ赤になる。
一将の声が聞こえ無い将吾は、「顔が赤いが大丈夫か」と玲子の体調を気にして、首筋に触れたり、額に手を当てたり、と大忙しだ。

「だ、大丈夫です……」

そう答えたものの、将吾からの激しいスキンシップに、玲子の顔の赤味は、なかなか引かなかった。

 そんなやり取りを交わしながら、馬車は薬舗「菊屋」の前に到着した。
 将吾のエスコートで馬車から降りた玲子。その後ろでふわりと風が揺れ、一将がふむふむと腕を組む。

『……うむ。なるほど、この店か。覚えておる。わしの若い頃にも、ここから薬を取り寄せたことがあったでござる』

 玲子はわずかに表情を緩め、こくりと頷いた。
 小さな格子窓が並ぶ薬舗の戸をくぐると、店内には干された薬草の香りがほのかに漂っている。
 すると、帳場の奥から、白髪混じりの店主が顔を出す。

「これはこれは、藤堂様……ようこそお越しくださいました」

 店主は将吾に深く頭を下げ、続いて玲子に目を向けた。

「今日は……いかがなさいましたか?」

「実は、ずいぶん前の事をお尋ねしたいのですが……。藤堂一将様が服用していた“夜用の薬”について、少し調べておりまして……」

 玲子の言葉に、将吾が頷くと店主は「ほう」と目を細め、奥の棚から古い帳面を取り出した。  
パラリ、パラリ。
 熟練の指先が慣れた手つきで頁を繰り、やがて、ある一頁で止まる。

「ございますな。確かに……“夜用の調合”。麻黄、甘草、竜骨、黄連……」
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