明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 一同の視線が輝明に集まる。その重厚に耐え兼ねように輝明はおもむろに語り始めた。

「長男の将輝兄は、軍の任務で地方に赴任し、滅多に家に戻らなかった。次男の尚敬兄は、家よりも自分の事業に夢中で、家督に興味など持たなかった」

 かすれた声に、しかし滲むのは淡々とした諦めではなく、深く澱んだ渇望だった。

「だからこそ、藤堂の家を継ぐのは、ワシだと……そう思っていた。ワシ自身が、誰より信じていた」

 輝明は顔を上げた。その目は、かつての温厚な叔父の顔ではなかった。複雑に絡んだ感情の底から、暗い影がにじんでいる。

「父は、ワシにすべてを任せていた。財産の管理も、人の配置も、日々の細事も。家を、藤堂を守ってきたのは、ワシだ。……なのに、父が選んだのは、長兄……お前の父親である……将輝だった」

 その瞬間、将吾の眉がぴくりと動いた。

「父は、将輝兄に藤堂を託した。しかも、誰にも相談することなく、一方的に手続きを進めた……。それは、ワシにとって、裏切りだったのだ」

 輝明の声が低く沈む。怒りとも悲しみともつかない響きが、空気を震わせる。

「……ワシの努力を認めずに、結局、血統と序列で家を決めたんだ。ワシがどれだけ家を守ってきたか……体のいい駒でしかなかった」

 将吾はその言葉を、鋭いまなざしで黙って受け止めていた。
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