明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 黒い霊に完全に呑まれた輝明が、狂気の叫びを上げた。
 分家衆は恐怖に後ずさり、広間は混乱の渦に陥る。

 玲子は震える足を踏み出し、胸に両手を当てて声を放った。
「……おやめください! これ以上、悪事を重ねることを一将様は望んでおられません!」

 だが輝明はなおも憎悪の光を失わず、血走った目で玲子を睨みつける。
「……おのれ……すべて……お前のせいだ……!」

 獣のような咆哮とともに、輝明は最後の力を振り絞り、玲子へと飛びかかった。
 その爪のような手が、今にも彼女の喉を裂かんと迫る――。

 だが、その瞬間。

『おのれ、玲子殿には指一本触れさせぬ!』

 朗々たる声とともに、若き日の一将が立ちはだかった。
 輝明の両肩をがっしりと掴み、凄まじい力で動きを押さえ込む。

「ぐっ……離せ!」
 黒い影がもがき狂う。だが一将の腕は微動だにしない。

 その姿は、この場に居合わせた人々の目にもはっきりと映っていた。

『そなたは藤堂を裏切った。己が欲に呑まれ、悪しき霊に魂を売った! この手で止めねばならぬ!』

 一将の怒声が広間を震わせる。
 その背後で、将吾が刀を構え、静かに歩み出た。

「祖父上、覚悟!」

 一将が力強く頷く。
『……行け、将吾!』

 将吾の眼差しは烈火のごとく燃え、次の瞬間、刀が閃いた。

「――はあああっ!」

 鋭い一閃が輝明の胸を貫き、黒い霊の影を真っ二つに裂く。
 轟音のような咆哮とともに、黒煙が弾け飛び、広間はまばゆい光に包まれた。

 やがて影は掻き消え、輝明は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
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