明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
暴走した輝明は、ついに気がふれたように虚ろな瞳で意味をなさぬ言葉を繰り返した。
分家衆一同の話し合いの末、ついには、屋敷の奥の部屋に閉じ込められることとなった。
もはや藤堂を導くことはできず、哀れな影に成り果てたのだ。
戦いの余韻が残る広間には、まだ緊張の色が漂っていた。
だがその時、澄んだ風がふわりと吹き抜け、そこにひとりの姿が現れる。
若き日の藤堂一将。
その威厳ある姿に、分家の年配者たちが息を呑んだ。
「……一将様……!」
「まさか……御姿を……」
確かにそこに立つ一将は、玲子の傍らへ歩み寄り、ゆるやかに頷いた。
『この娘こそ、我が藤堂を託すに足る者。玲子殿を、将吾の花嫁として迎えることを、拙者は認める』
その声は、分家衆の耳にもはっきりと届いていた。
広間にどよめきが走り、やがて重々しい沈黙ののち、ひとりの長老が深く頭を垂れる。
「……一将様のお言葉、しかと承りました。榊原玲子殿を、我ら一門の花嫁としてお迎えいたします」
次々と頭を下げる分家衆。
玲子は驚きに目を見開き、思わず将吾を見上げる。
将吾は微笑み、卓の下で彼女の手を強く握り返した。
その瞬間、玲子の胸に、ようやく重苦しい呪縛が解けるのを感じた。
すべてを越えて、いま確かな未来へと繋がったのだ。