明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 その問いに、将吾はまったく迷いを見せなかった。

「はい、玲子殿のすべてを受け入れるものだと心得ております。……玲子殿の人生も、彼女の母君のことも、その全てを含めて、共に歩む覚悟です」

 その言葉に、隆之の表情がかすかに揺れた。

 そして、ふと玲子の方へ向き直る。
 口を引き結び、しばし遠い記憶を辿るように目を伏せていたが、やがてゆっくりと顔を上げ、ふと玲子の方へ向き直る。

「……玲子」

 その声に、玲子はぴんと背筋を伸ばした。

「はい」

「私も……君に、ひとつ謝らねばならない」

 その言葉は、まるで喉の奥から絞り出すようだった。

「これまで、君の母のことを……そして、君自身のことを……ずいぶん、冷たく扱ってきた。”駆け落ちしたふしだらな女の娘”などと……愚かにも、そう思い込み……」

 その声には、懺悔の痛みが滲んでいた。

 言葉はそこで途切れ、隆之は拳を膝に押しつけるようにしてうつむいた。

「本当は、千賀子は……」

 隆之は小さく唇を噛み、そして震える声で続けた。 

「そんな女ではなかったのに……」

 深く刻まれた皺の間から、一筋、苦悶のような息が漏れた。

「すべては、私の怠慢だった。真実と向き合う勇気もなく、あのとき、百合絵の言葉を鵜呑みにして……おまえの母を……そして、おまえ自身を……」

 隆之は顔を上げた。その目は赤く濡れていた。

「君の目を見て話そうとすらしなかった。……ただ、家の体裁ばかりを気にして、父としての責務から逃げたんだ」

 その声音には、娘に対してかける言葉を十六年もの間、抱え続けてきた重みがあった。
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