明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 これには、玲子も慌てた。将吾に毒を盛るなど恐れ多い。それに身に覚えのない罪の犯人にされてはたまらない。

「ち、違います。わたくしは、葡萄酒を避けろと頼まれただけです」

「ほう、誰に頼まれたのだ」

 玲子がチラリと一将の方を見ると、『ほれ、言え』と一将が急かす。
 
「あの……貴方様の祖父にあたる一将様です」

「はっ⁉ 何を言っているんだ。祖父は俺が幼い頃に亡くなっている。その祖父と貴様が話しを出来るわけがない!」

 そう言って、将吾は怪訝な顔をする。
 
 一将に助言を貰おう考えた玲子は、顔をあげ辺りを見回す。
 しかし、玲子の思惑とは裏腹に、話題の人である一将の姿はいつの間にか消えてしまっていた。
 誰の助けも得られない、孤立無援の状態に玲子は目の前が暗くなる。
 本当の事を言っているだけなのに、これ以上の弁明も出来ない。
 このまま、将吾から吊るし上げられ、殺人未遂の犯人として警察沙汰にでもなれば一大事だ。
 この先、親から失望の眼差しを向けられ、犯罪者として生きて行かねばならない。
 
「わたくしは、真実を話しておりますが、それを証明する術がありません」

 絞り出すように口にした玲子の瞳からは、信じてもらえない悔しさと、暗い未来しか見えないで悲しみで涙がポロポロこぼれ出す。

 玲子の涙が、静かに、けれど確かな存在感で足元の芝に滴り落ちる。
 その姿に、将吾はハッとしたように動きを止めた。

(泣かせるつもりなどなかった……)

 苛立ちと警戒が入り混じり、玲子を強く問い詰めていた自分を、将吾は今さらながらに自覚する。

「……祖父と話したと、本気で言っていたのか」

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