明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 将吾は反射的に、玲子の腕をギリリッと、捻りあげる。
 狐憑き。
 舞踏会で聞いた不吉な噂が脳裏をよぎる。

「この異様な風も、貴様の仕業か……!」

「きゃっ……痛っ……」

 玲子の声が細く震える。
 痛みに顔を歪め、されど抵抗する力はない。
 儚い身体が将吾の手の中で小さく揺れた。

「い、いいえ……違います……わたくしでは……」

「なら、早く申せ!」

 その姿に、一将の怒気が臨界点を超える。

『いい加減にせんか、小僧がァ!』

 突風が吹き荒れ、木の葉が渦を巻き、まるで天地が怒りに震えているような気配。
 一将の周囲には黒く蠢く気がまとわりつき、空気が重くよどんだ。

「ダメ……このままだと、一将様と将吾様が……」

 一将の気がどす黒い物に変化し、怒りで正気を失い始めていた。
 その気に当てられ、ゾクッと背筋に悪寒が走る。

 玲子は深く息を吸い込み、お臍の下あたりにある丹田と呼ばれる場所に力を入れ、声を上げた。

「一将様、わたくしは大丈夫です。どうか……気を鎮めてくださいませ!」

 玲子の声に一将はハッとなり、我に返る。
 途端に風が止み、渦巻いていた木の葉がパラパラと足元に落ち、辺りは静けさを取り戻した。
 だが、尚も将吾は警戒した様子で、玲子を見下ろす。
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