明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 奥の離れ。
 玲子の髪は丁寧に結い上げられ、白無垢が身にふわりと寄り添っていた。
 鏡の前に立つその姿は、まるで時間から切り離されたような静謐さを宿している。

 「……まるで、夢のようです」

 思わず漏らしたその声に、傍らの女中がやわらかく笑う。

 「夢ならば、どうか醒めませぬように、と願う日でございますね」

 玲子は頷いた。
 けれど、胸の奥は静かな熱に包まれていた。
 母が遺してくれた刺繍の半襟に指先を添え、そっと目を閉じる。

(……わたくし、本当に“家族”になれるんですね)

 それは、幼い日々からずっと憧れ続けた言葉だった。

 そして、藤堂家の本邸・大広間。

 祝言の儀が始まると、場の空気がぴたりと静まり返る。
 将吾は羽織袴姿で壇の前に立ち、真っすぐに玲子の姿を見つめていた。
 その視線に、わずかに揺れた胸がまた鼓動を打つ。

 白無垢の裾を引いて、玲子が歩いてくる。

 その姿を見た瞬間、胸がひとつ、静かに鳴った。

(……美しい)
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