明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 玲子は、そっと顔を上げる。
 将吾のまなざしは、まるで春の陽射しのようだった。冷えきった心の底に、じんわりと温もりが満ちていく。

 「……はい」

 たったそれだけの返事なのに、声は震えていた。
 でも、それは悲しみではない。嬉しさと、安堵と、どうしようもない幸福に包まれて、言葉が形になる前に涙がこぼれた。

 将吾は無言でその涙を、親指でそっとぬぐう。
 その指先の温かさに、玲子の頬がほんのりと紅に染まる。

「……君がここに来てくれたことが、俺の誇りだ」

 玲子は息を呑み、その手を自ら重ね返す。
 まるで“夫婦”という約束を、指先で交わすように。

「……わたくしの方こそ。将吾様の隣に立てることが、人生でいちばんの幸せです」

 言った瞬間、顔が熱くなった。
 でも、隣にいるこの人になら、何も隠さずに言っていいと思えた。

 将吾がそっと微笑み、玲子の手を引いた。

「行こう。君と歩む道を、今、始めよう」

 彼の手に導かれ、玲子は静かに頷いた。
 それは、ただの結婚ではない。
 誰かの妻になるということではなく、居場所になる人と共に、歩いていくという決意だった。
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