明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
「これは……?」
それは、小さな紙包みだった。中には、小さな房飾りが入っていた。尚文の家紋の色に似た、やわらかな紺と白の糸で編まれた、ささやかな贈り物。
「妹のような君へ。……お守り代わりに、ね」
玲子は思わず目を潤ませ、そっとその包みを胸に抱いた。
それは、まるで兄が妹に託す、思い出の品のようだった。
そして、将吾が廊下の向こうからやってきた。
「将吾、おめでとう」
「ありがとう」
藤堂家の裏庭にある、古い椿の木のもと。そこに、玲子、将吾、尚文の三人が静かに立っていた。
風は柔らかく、空には薄紅色の残光が滲んでいる。
ふと、空気がわずかに揺れた。
誰より先に、玲子がその気配に気づく。静かに振り返ると、そこには、あの姿があった。
いつもの袴姿ではなく、玲子がひと針ひと針心を込めて作った深緑の霰模様の着物。それを着ている一将だった。
佇むその表情は、これまでになく穏やかで、柔らかな光を帯びていた。
「……一将様」
玲子が腰を折り、深々と頭を下げる。頬にかかる髪を、夜風がそっと揺らしていた。
その姿を見て、一将はゆっくりと歩み寄る。
『もう、何も言わずともよいのに……それでも、玲子殿には、最後に礼を申したかった』
その声は、まるで祖父が孫娘に語りかけるような、あたたかさに満ちていた。