明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 ある一点を見つめる玲子の視線を追って、将吾と尚文がハッと振り返る。
 だか、そこはただの部屋の一角でしかなかった。

「やっぱり、見えないんだな」

「ああ……おじい様が来てるんだっけ」

「はい。将吾様の斜め後ろにいらっしゃいます」

『うちの孫たちは、拙者に対する敬意が足らんのじゃ。もっと敬え』

 そう言って、ふんぞり返る一将に、玲子はくすっと微笑む。

「おじい様は、尊敬と愛情が大切だとおっしゃっています」

 玲子の通訳はややマイルドだったが、一将はご満悦な様子で頷いている。

『玲子殿は心根が優しいから、拙者が見えるのじゃ。拙者も身体があれば、ぜひとも玲子殿に着物を仕立てて欲しかったものよ』

「わたくしの仕立てでよろしければ、ぜひご用意させてくださいませ」

 何もない空間に向かって、玲子が真っ直ぐに頭を下げる。
 その様子を見ていた将吾と尚文は、少し不思議な気持ちになる。

「……本当に仕立てるつもりなのか?」

「はい。実際にお召しいただくのは叶いませんが、せめてお供えをと思いまして。おじい様の背丈は……そうですね、尚文様と同じくらいですので、採寸は尚文様にお願いできますか?」

 言われた尚文が驚きつつも笑みをこぼすと、一将は玲子の隣に立ち、感謝を込めて手を握る……が、もちろんすり抜けてしまう。

『あはは、我が儘を言ってすまぬな』

 その気持ちが玲子の胸にじんわりと届き、笑みがこぼれる。

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