それも、初恋。。

『高校生の皆さん、まもなく介助実習終了の時間です。速やかに業務を終えて食堂ホールに集まってください』

「あら、もうそんな時間?」

 よいしょ、と、桜井さんがベンチの隣に留めていた車いすに細い体を移動させる。
 見た目通りに軽い桜井さんを車いすに乗せてリノリウムの廊下をスルスル戻りながら、私の頭はコウタ君と橘のことが、DNAの二重らせん構造みたいにぐるぐる絡まって巡り続けていた。

 イケメンコウタ君は外見で人を判断しないタイプだったのかもしれない。
 橘もたぶんそうだ。あいつは性格がいいから。
 
 だからイケメン橘には、そう遠くない未来に彼女ができるだろう。
 さすがにもう高校生だし。
 あいつはイケメンだし。
 むしろこれまで彼女がいなかったことが不思議なくらいだし。 

 橘の周りには、可愛い女子たちがはびこっている。
 その子たちの中のとびきり可愛い誰かが、いずれ橘の彼女になるんだろう、と、思っている。

(でももし、そうじゃなかったら?)

 そうじゃなかったとき、私はどう思うんだろう。
 いや、そもそもサラふわ女子の誰かが橘の彼女になったとき、本当に私は諦められるんだろうか。

 だけど私はしょせん、もこりポメ。

 橘につりあわない。
 私は身の程をわきまえている。
 わきまえているから、このポジションを選んだ。
 女として見られない代わりに男友達並みに仲良くなれる、友達ポジを。

 無言で車いすを押し続ける私を、桜井さんもただ静かに受け止め続けている。
 廊下の窓の外を眺めながら。

 茜色の空があった。
 翳を含んだオレンジ色の光が、私たちに差し込んでいた。
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