それも、初恋。。

ライラックの手紙

 泉ちゃんへ。

 何も言わずにお別れしちゃって、ごめんなさいね。
 せっかくなので、その後の私とコウタ君について最後まで聞いてもらいたくて、手紙をしたためてみました。

 狭い地元。
 私はその後も高校生の間に、何度かコウタ君を見かけることがありました。
 でももう、近づくことはできませんでした。

 今もあるのかどうかわからないけれど、当時、彼女がいる男子に気安く話しかけてはいけないっていう暗黙の女子ルールがあったの。
 気にしない子もいたけれど、私は気にするタイプでした。

 一旦そうなってしまうと、あっという間に距離は開いて、気が付けば私は、気安くコウタ君に話しかけられない他人になっていました。
 好きな人に彼女ができる意味を、その時初めて私は、ちゃんと理解した気がします。
 もう、悔やんで悔やんでね。
 今思い出しても、人生で一番せつなくて苦しかった日々です。

 そうして月日は流れ、私は他県の大学に入学し、社会人になって、人並みに結婚して子どもも生まれ、孫もでき、もうすぐ夫のもとへ旅立とうとしています。

 夫とは恋愛結婚です。家庭もつつがなく円満でした。
 私の人生は平凡ながら幸せでした。

 でもね、そこそこ幸せな人生を送りながら、時々考えていたの。
 もしコウタ君と出会ったのが二十代以降の私だったら、もっと気楽に「つきあって」と、言えたかもしれないのになぁって。
 そうしたら、今とは違う未来があったのかなぁって。

 密かにいろいろ妄想したりしてね。
 これは墓場まで持っていく秘密の1つね。

 今思い返してみても、十代の頃の恋はシェイクスピアの悲劇みたいで、まさに命がけな感じがします。
 一歩間違えたら待っているのは死、みたいな。
 風の吹く崖っぷちに立たされているような。

 恋の相手も非の打ち所がなく完璧に見えるし、逆に自分は欠点だらけに思える。
 でも実際はどちらも同じ、ただの中高生なのにね。

 二十代になると(あくまで私の場合だけれど)、恋愛の客観的視野みたいなものが広くなって、恋はもっと気楽でフランクなものになっていきます。
 相手にも欠点があるとわかるし、自分も案外悪くないんじゃないかって、思えるのよ。
< 37 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop