それも、初恋。。

7月のもやもや

 7月になった。
 早朝からジュワジュワとセミがやかましい。
 
 河川敷の少し先では、暑さに朦朧とした泉がママチャリを漕いでいる。

 セミの声が気になるのか、周りの緑に睨みを効かせたあと、ふと考え込み、藻が増えまくった緑の川に視線を投げて……何か知らんけど頷いた後、くせ毛に手をやって眉を寄せている。
 相変わらず意味不明。

 ぐっと、ペダルに力をこめて速度を上げながら、後ろから呼びかけた。

「おーい、まーた髪に葉っぱついてんぞー」

 ぬっという顔で俺を見た泉は、暑さのイライラをぶちまけるように片手で頭をババッと払う。
 フルフルと全力で頭も振っている。
 その仕草が、ふわふわした毛玉っぽい小型犬を連想させる。俺の一番好きな犬種の……。

「わー、その動き、生垣から出てきたポメラニアンみてぇ」
「橘君、イケメンだからって言っていいことと悪いことがあるんだぞ」

「褒め言葉だろ。ポメ可愛いじゃん。つか、あっちぃし、魔物城行きたくねーし、奴らの文句エグいし」
 一瞬驚いたみたいに目を見開いた泉が、すぐにいつもの顔に戻ってへへんと言う。

「橘はツワモノ担当の勇者だしねー。ツワモノたちを丸め込む橘のコミュ力の節操のなさたるや。よっ、さすがイケメン」
「お前だって、語尾にイケメンつけときゃ何言ってもいいとか思ってんだろ」
「本日のツワモノレベルは何だろねー。レベルMaxだといいねー」

 言われて、マジでげんなりした。
 佐藤さん大変だろうな、と、いろいろ頼みごとを聞いているうちに、ふと気が付けば、めちゃくちゃ厄介なじいさんばあさんばっかり押し付けられるようになっていた。
 佐藤さんは案外やり手なのかもしれない。

「それな」と、切実なため息が漏れる。
「へ?」

「マジで最近、ツワモノレベルMaxばっかなんだけど」
「……ああ、そっちね」
 そっち?
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