見上げた星空に、奇跡が降る

20 止まった足の先に

     ―オリオンー

 「ありがとうございます」という短い返事が届いたあと、しばらく画面は静かだった。
 
 このまま会話は終わるのかもしれない……そう思った矢先、新しいメッセージが立て続けに届きはじめた。


 =小学生のときは、友達とよく放課後に公園で遊んでいました。お菓子を分け合ったり、本屋に寄ったり……

 あの時間がすごく楽しかったです=


 文字の端々に、懐かしさのにじむ温度がある。

 読みながら、彼女が当時の景色を思い出しているのが伝わってくるようだった。


 =でも、中学に入ってからは、友達と別々の学校になって……最初は話しかけてくれる人もいたけど、だんだんいなくなって。

 気づいたら、教室でひとりになっていました=


 短い一文ごとに、胸の奥に小さな痛みが走る。

 想像するだけで、その孤立の重さが分かる気がした。


 =それから、学校に行こうとすると、玄関で足が止まってしまって……視界が暗くなって、何も見えなくなるんです。

 それが怖くて、家から出られなくなりました=


 僕は黙って読み続けた。

 返事を急がず、ただ彼女の言葉を受け止めることだけを考える。


 =ずっと部屋で過ごしてきました。本を読んだり、音楽を聴いたり……でも、気づけば一日があっという間に過ぎて、

 誰とも話さず終わっていました=


 彼女の言葉は、堰を切ったように流れ出していた。
 
 長いあいだ胸の奥に溜め込んでいたものを、今やっと吐き出しているのだと分かった。

 そんな中で、ひときわ明るい文章が届いた。

 =でも、小学生の頃は本当に楽しかったんです。友達と星を見たり、川で石を拾ったり……あの頃のことを思い出すと、

 少しだけ笑えます=


 「…………」

 僕は、自然と笑みがこぼれた。


 彼女が暗い時間だけじゃなく、ちゃんと「楽しかったこと」も思い出せていることが、嬉しかった。
 =話してくれてありがとう。きっと、その時のことも、今のあなたの中にちゃんと残ってるんだと思います=
 送信してから、望遠鏡を覗いた。
 冬の大三角は、相変わらず冷たい空に輝いていた。
 その光は、画面の向こうの彼女にも届いている……そう信じたかった。

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