見上げた星空に、奇跡が降る

27 1日の終わりの宝物

     ―迷い猫―

 オリオンとやり取りをするのが、いつの間にか一日の中でいちばん楽しみな時間になっていた。

 朝起きてカーテンを開けたとき、昼間に窓から見えた雲、夕方に聞こえた鳥の声――

 そんな何でもないことを、「今夜話そう」と頭の片隅に置いておく。

 夜になると、机にノートパソコンを置き、カーテンを半分開けて外を見ながらメッセージを打つ。


 =今日は窓の外に猫が通りました。白くてふわふわでした=


 すぐに返事が届く。


 =こっちは夕方にカラスが集まっていて、すごい声でした=


 画面の向こうで、彼が笑っているような気がして、私も小さく笑った。

 星や空の話も続く。


 =今日の空は雲が多くて星が見えなかったけど、月だけはぼんやり見えました=

 =それは薄雲越しの月ですね。光が滲んで、きれいだったでしょう?=


 こうしてオリオンに教えてもらったことは、必ず次の日に探してみた。

 うまく見つけられたときは、子どものころに宝物を見つけたみたいに嬉しくて、その気持ちをすぐに伝えた。

 ときどきは、星とは関係のない話もした。


 =スーパーで苺が安かったので、お母さんが買ってきてくれました。甘くて美味しかったです=

 =こっちは苺はまだ高いですよ。食べられて羨ましいです=


 そんな何でもない会話が、気づけば部屋の中の静けさを埋めてくれる。

 前は、窓の外を見ても、何も感じなかった。

 空の色も、風の匂いも、ただ流れていくだけだったのに。

 今は「これを話したら、彼はどんな返事をくれるだろう」と思うと、外の景色さえ違って見える。

 私はまだ外に出る勇気は持てない。

 それでも、彼と繋がっているこの時間は、確かに私を外の世界へ近づけていた。

 ……もしかしたら。

 ほんの少しだけなら、外に出てみてもいいのかもしれない。

 夜の空を見上げるだけでも、きっと彼と同じ景色をもっとはっきりと見られるかもしれない。


 そんな考えが、ふと胸の奥に生まれてきた。
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