見上げた星空に、奇跡が降る

30 窓の向こうを伝えたくて

   ―迷い猫―

 オリオンからの返事を読み返す。


 =また静かな夜があったら、どんなふうに感じたか教えてください=


 たった一行なのに、胸の奥に小さな火がともる。

 まるで「あなたの感じた世界を、僕にも見せてほしい」と言われたようで、少しだけ誇らしい気持ちになった。

 私は今まで、夜空や街の音を誰かに伝えようなんて思ったことはなかった。

 窓の外を見るのは、ただ時間をやり過ごすためで、そこに意味なんてないと思っていた。

 でも…………彼が興味を持ってくれるなら、もっといろんな景色を見てみたい。

 もっと、言葉にできる感覚を集めてみたい。

 ふと、カーテンの端を指でつまむ。

 あの先には、もっとたくさんの風景が広がっているはずだ。

 虫の声や、夜の匂い、冷たい空気の感触……窓の隙間から届くわずかな情報だけじゃなく、自分の足で確かめられたら。

 頭の中に「外に出てみる」という言葉が浮かんだ瞬間、心臓がどくんと音を立てた。

 今まで考えもしなかったこと。

 怖さと同時に、ほんの少しの期待が混ざる。

 すぐに実行できる自信はない。

 でも、もしできたら…………その時はきっと、真っ先に彼に伝えよう。

 その景色を、オリオンに見せたい。



 誰かのために自分が何かをしてあげたい……。

 そんなことを思ったのは、生まれて初めてだった。

< 30 / 42 >

この作品をシェア

pagetop