見上げた星空に、奇跡が降る

41 僕の見上げた空の下で

  
 
  ―オリオンー

 床は氷のように冷たかった。
 
 倒れ込んだ体は重く、もう二度と起き上がれないことを、どこかで理解していた。

 それでも、首だけをわずかに傾け、窓の外を見上げる。

 厚く覆っていた雲は、まるで何かに押しのけられたように裂け、黒い天幕が顔を覗かせていた。

 その裂け目から、星々が溢れるように現れる。

 澄み切った空気の中で、ひとつ、またひとつと流れ星が駆け抜け、白い尾を残して消えていった。


 
 ……きれいだ……。



 声にならない言葉が、胸の奥から溢れてくる。

 視界が滲むのは、苦しさのせいか、それともこの光景に心を奪われたせいか、自分でも分からなかった。

 流れ星がひと筋、瞳の中に飛び込んでくる。

 その瞬間、自分の中にあった痛みや恐れが、不思議と薄らいでいった。

 
 ……彼女も、同じものを見ている。

 
 夜空の下、どこか遠くの丘で、迷い猫は今、世界の美しさを知っているはずだ。

 初めて、自分の足で外へ出て、広がる空を見上げ、その光を全身で受け止めているだろう。

 その光景を想像すると、口元に自然と笑みがこぼれた。


 
 ……これで、《迷い猫》は飛び立っていく。


 いや、もう迷い猫なんかじゃない。
 
 もう何の悔いもない。

 ただひとつだけ――彼女の感想を聞きたかった。

 どんな言葉で、この空のことを語るのか。

 その声を、ほんの少しだけでいいから聞きたかった。

 悔いがあるとすれば、それだけだ。

 「……ふふ」



 僕は胸の奥でその願いを抱きながら、静かに瞳を閉じた。
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