恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?

「やばっ!恵さん来ちゃった!どうしよう~なにもできてないのにぃ……」

 ひとまず頭を抱えるのはあとにして、慌てて部屋着から余所行きの服に着替えて恵さんを家に招き入れる。

「め、恵さんっ!いらっしゃいませ!」
琴葉(ことは)先生、お忙しい中すみません。今日は駅前に新しくできたケーキ屋さんのフルーツタルト、買ってきましたよっ」

 可愛らしい笑顔でにこりと私に微笑みかける恵さん。今日も今日とて美人さんだぁ。
 その眩しすぎる笑顔に心を浄化されながら、私は恵さんをリビングに通す。
 あ、因みに、琴葉、というのが私の小説家のペンネームである。恵さんは恵が苗字だ。

「い、今紅茶淹れますねっ」
「いつもありがとうございます」
「い、いえ!こちらこそ!いつも来ていただいて……」

 担当さんとの打ち合わせは専ら自宅である。うちから出版社が近いということもあるけれど、あまりに機械音痴すぎてビデオ通話のやり方がよくわからなかったのだ。
 貰い物のよくわからない多分ちょっと高級な茶葉で紅茶を淹れると、恵さんが嬉しそうに笑顔を零す。

「うーん、いい香りです。ダージリンですか?」
「え、あ、多分……」

 恵さんが買ってきてくれたフルーツタルトを皿に載せ、紅茶を淹れたティーカップと共にダイニングテーブルに置く。

「ありがとうございます!いただきます」
「こ、こちらこそありがとうございます……い、いただきますっ」
「……うん!美味しい!ここのケーキずっと気になっていて!先生と一緒に食べたいって思っていたんです!」

 恵さんはにこにこしながらケーキと紅茶を口に運ぶ。
 うん、確かに美味しい……。そして紅茶によく合う。
 美味しいものに夢中になっていると、恵さんが口を開く。

「で、先生。進捗はいかがですか?」
「ごふっ」

 飲んでいた紅茶を吹き出しそうになって、私は慌ててそれを飲み込んだ。

「し、進捗……ですか……」
「はい!次回作の恋愛小説の進捗です!」

 恵さんはにこにこと爽やかすぎる笑顔を浮かべて、私を見つめている。小説の打ち合わせに来たのだから、遅かれ早かれ小説の進捗を訊かれるのは当たり前だ。
 曇りなき眼に私は少したじろぎながらぼそぼそと口を開いた。

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