恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?

「あ、えっと、まだ、その……なんていうか、あまり進んでいないというか……」
「ふんふん、進みが悪いと。具体的には、どこまで進んでます?」
「進んでいる、というか進むエンジンを少しずつかけている……みたいな、進むために何をしたらいいのかと思案しているというか……」
「ふんふん、つまり、全く書けていないんですね?」

 私が吐き出したもごもごとした言葉たちを、容赦なく簡潔にまとめる恵さん。

「……ええ、仰る通りで……」

 私が肩身狭く縮こまっていると、恵さんは可愛らしく頬を膨らませる。

「もうっ!それならそうと言ってくださいよっ!」
「え?」
「なんのために担当編集がいると思ってるんですか!」
「え?なんのため?私のようなだめだめ作家の尻を叩くため?」
「いやいや違いますよっ!琴葉先生の本を一緒に作るためです!行き詰ってるなら相談してくださいよ~!私と先生の仲じゃないですか!」
「恵さん……!」

 恵さんが私の担当になってくれて早4年ほど。気さくで優しい恵さんの性格もあり、歳が近いこともありで、すっかり友人のように打ち解けている。
 しかし、それとこれとは別である。

「お、お言葉はもちろん嬉しいのですが……、作家としていつまでも担当さんに甘えているというのも……」

 情けないことこの上ないことは十分にわかっているのだけれど、結局いつも恵さんに泣きついてしまうのだ。

「もうっ!琴葉先生はネガティブすぎます!二人で案を出し合って、二人で相談していい方で進める、そんな気楽な考えでいいじゃないですかっ!さ!今日も打ち合わせ始めますよ!」
「はい……」

 28歳の子供をあやした恵さんは、鞄からさっと手帳を取り出すと早速しごでき編集モードへと突入した。
 私も慌ててノートとペンを持ってきて、テーブルに広げる。

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