私は‪✕‬‪✕‬を知らない I
言葉にせずとも伝わるようで男は続ける。


「この子の傍に居るのを許してくれるなら、だっけか」


「お前それをどこで・・・、聞いてたのか」


「ちょっくら封筒返す時にねー」


「封筒・・・?まぁいい」


大方あいつらの誰かに盗聴器を仕掛けたんだろう。相変わらずの手癖の悪さだと感心する。


二人の間に沈黙が流れる。


「・・・それじゃ駄目?」


「・・・」


「普通の女の子として生きる、じゃ駄目?」


自身がそんな事を口に出来る立場では無いことを男は充分に理解していたが願わずにはいられなかった。


カップを置き少女は静かに口を開く。


「そんなの分かりきった事だろ?」




私は、


正体が分からず、


誰とも関わりを持たず、


そして、


ーーー、


そんな存在でなくちゃいけないんだ。



「そうだろ?」


少女は笑みを浮かべた。


周りから見れば誰をも虜にする美しい笑み。


だが少女をよく知る男からすれば痛々しいものに他ならなかった。


心から楽しいと笑う少女の笑顔を知っているからこそ、その違いは明白だ。


(その笑顔でさえももう・・・)


男は祈る。少女は自身の為に願うことなんざしないのだから。


男は祈る。少女は自身が幸せになる道なんざ望まないのだから。


男は祈る。自分達では少女を幸せにはできない。できなかったのだから。
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