転生小説家の華麗なる円満離婚計画

 結婚式を無事に終えると、翌日からヘンリックは十日間の結婚休暇となった。

 彼にとっては久しぶりのまとまった休暇なのだそうで、ゆっくり読書でもするとか以前は言っていたが、読書そっちのけで彼はマリアンネを全力で口説きにかかった。

 だが、そんな美貌の貴公子の甘い猛攻にも、彼女は容易く陥落したりはしなかった。

 彼が私から貰った三冊の本をまだ読んでいないことを知ると、彼女のアメジストの瞳が瞬時に三角になった。

「お姉様の本を読みもせず放置するなんて、許せません!
 全部読むまで、私に近寄らないでください!」

「わ、悪かった! すまなかった! すぐに読む! 読むから!
 私を嫌わないでくれ!」

 ぴしゃりと拒絶する彼女に、彼は縋りつかんばかりの勢いで謝り、即座に読書を開始した。

 私の近くにいたから影響を受けてしまったのか、不実な父を見て育ったからか、彼女も男性に対しての警戒心が人一倍強い。
 とはいえ、素顔の彼女はとても可愛いから、悪い男性にひっかからないためにもそれくらいでちょうどいいと特に何も言わずにこれまで過ごしてきた。

 私の小説は女性向けの内容だから、彼にはつまらないんじゃないかな? と密かに心配したのだが、幸いにもそれは杞憂だった。

「これ、すごく面白かったよ! 続きはないの?」

 私がのんびりと次作のプロットを練っているところに、瞳をキラキラと輝かせながらヘンリックがやってきたのだ。

「その作品は一巻だけで終わりです。ハッピーエンドだったでしょう?」

「そうだけど、主人公たちが幸せな結婚生活を送ってるとか、そういうのがあってもいいじゃないか!」

「そのあたりは、読者が好きなように想像してくれたらいいのです。
 あまりだらだらと続けても、蛇足になってしまいますから。
 すっきりきれいに完結させるというのも、とても大事なのですよ」

「そういうものなのか……」

 なんとも残念そうな顔で、彼は手にした本に目を落とした。

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