転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「マリアの一番のお気に入りはどれ?」

「一番なんて、決められませんわ。どれも大好きなんですもの」

「それなら、騎士がでてくるような物語はあるかな?
 ほら、私も騎士だから」

「でしたら、『呪われ騎士は漆黒の魔女を篭絡する』をお勧めします」

「……なんだか不穏な題名だね。ハッピーエンドになるの?」

「もちろんです!
 お姉様の作品は、必ずハッピーエンドで終わるから安心して読めるというので定評があるのですよ。
 この作品は、ヒーローが無自覚な人たらしで、照れ屋なヒロインがすぐに真っ赤になるのが可愛いんです!」

「ふぅん、じゃあ次はこれを読んでみようかな。
 他にはどんなのがお勧めなのかな?」

「ファンレターが一番多く届いたのは、『ダンジョンで助けた迷子は隣国の王子様でした』ですね。
 ヒーローは王子様の護衛騎士なんですけど、堅物な騎士がヒロインにだけデレるのがいいって評判で……」

 マリアンネは私の作品について語りだすと止まらなくなる。
 案の定、ついさっきまで渋々だったのに、嬉しそうに内容やお勧めポイントを説明を始めた。

 ヘンリックはちゃんと話を聞きつつも、蕩けるような笑顔をそんな彼女に向けている。
 それでも、彼女との間にはきちんと適切な距離をおき、近づきすぎないように気を付けているのがわかる。

 十年以上ずっと探していた、薔薇色の髪の女の子が目の前にいるのだ。
 本当は今すぐにでも抱きしめたいのだろうに、と思うとなんだか彼がいじらしくて、これからもさりげなく応援してあげることにした。

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