転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「私の夫になにか御用?」

 私より身長が低いカリナを、思い切り上から見下ろした。

「え……? ヘンリック様、このひと誰?」

 彼女は虚を突かれたようで、戸惑ったようにヘンリックを見た。 

「私の妻だ。美しいだろう?」

 彼はニヤっと笑って見せつけるように私の肩を抱き寄せ、同時にさりげなく殿下とマリアンネを背中に庇う位置に立った。
 
「妻って……えぇぇ……そんなぁ……」

「私は既婚者だと、今までに何度も言ったはずだが」

 胸の谷間を強調するように両手を握り、ぱっちり二重で黒目がちな瞳を潤ませて上目遣いされても、ヘンリックには少しも響かない。
 
「始めまして。ヘンリック様の妻、クラリッサ・フューゲルです。
 あなたは、夫とどういう関係なの?」

「ええっと、私、聖女のカリナっていいます。
 ヘンリック様とは、お友達っていうか……その……」

 艶やかな黒髪を揺らしてもじもじするカリナ。
 小柄で童顔で可愛らしい顔立ちをしているから、そんなあざとい仕草も様になる。
 
 私の前世の時から、まったく変わっていない。
 これにコロッと騙される男も多かったのだが、ヘンリックはただ無表情でカリナを見下ろしている。

「さっき、私の夫に抱きつこうとしているように見えたけど。
 あなたの言うお友達とは、どういうお友達なのかしら」

「えっと、その……私はただ、ヘンリック様と仲良くなりたくってぇ……」

 前世でも、同じようなことがあった。
 あの時のことを思い出し、怒りで胸が内側から焼かれるような気がした。

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