森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
第2話 場違いな求婚
小さな異形の思いが流れ込んでくる。懸命に訴えかける姿を前に、リーゼロッテは目蓋を閉じた。
「そう……あなたは過去のことは思い出したくないのね。いえ、いいのよ、誰だってつらいことは忘れたいって思うもの……ええ、そうね、それでいいと思うわ。今までずっとひとりで頑張って耐えてきたのね……でももう大丈夫。その思いと一緒に、このまま天に還りましょう?」
もう楽になりたい。何もかもを忘れ去って。暗く重い澱の中、小鬼は必死に手を伸ばしてくる。ゆっくりと瞳を開き、小鬼に向かってほほ笑んだ。
緑の力が小鬼を取り巻いて、絡みつく闇から切り離す。そして流れる水路のように、天に続く狭間へと導いていった。
低く重苦しかった小鬼の波動が、昇るごとにふわりと軽やかになっていく。やがては光に溶け込んで、眩しさで輪郭すら見えなくなった。
(やっとあの子を楽にしてあげられた……)
閉じゆく天への扉に目を細める。言いようのないよろこびが、胸に深く込み上げた。
リーゼロッテの力に触れたとき、多くの小鬼はご機嫌にはしゃぎまわった。そのほとんどが満足したかのように、いつしか自発的に還っていく。
だが一部の異形は頑なに心を閉ざし、黒い呪縛に囚われたままでいた。そんな小鬼たちはみな、終わりのない苦痛にひたすら耐えているようだった。
それがつらく悲しくて、どうにか楽にしてあげたかった。だが異形自らが助けを求めてこないことには、リーゼロッテは天に還せない。だから根気よく異形のこころに寄り添った。
自分の存在に気づいてくれるまで、ただそばにいるだけだ。暗い思いに触れていると、自分も落ち込んだ気分になってくる。それでもその先にある光を信じて、リーゼロッテは決して諦めなかった。
「今日はもう終いにしろ」
「分かりましたわ、ヴァルト様」
「そう……あなたは過去のことは思い出したくないのね。いえ、いいのよ、誰だってつらいことは忘れたいって思うもの……ええ、そうね、それでいいと思うわ。今までずっとひとりで頑張って耐えてきたのね……でももう大丈夫。その思いと一緒に、このまま天に還りましょう?」
もう楽になりたい。何もかもを忘れ去って。暗く重い澱の中、小鬼は必死に手を伸ばしてくる。ゆっくりと瞳を開き、小鬼に向かってほほ笑んだ。
緑の力が小鬼を取り巻いて、絡みつく闇から切り離す。そして流れる水路のように、天に続く狭間へと導いていった。
低く重苦しかった小鬼の波動が、昇るごとにふわりと軽やかになっていく。やがては光に溶け込んで、眩しさで輪郭すら見えなくなった。
(やっとあの子を楽にしてあげられた……)
閉じゆく天への扉に目を細める。言いようのないよろこびが、胸に深く込み上げた。
リーゼロッテの力に触れたとき、多くの小鬼はご機嫌にはしゃぎまわった。そのほとんどが満足したかのように、いつしか自発的に還っていく。
だが一部の異形は頑なに心を閉ざし、黒い呪縛に囚われたままでいた。そんな小鬼たちはみな、終わりのない苦痛にひたすら耐えているようだった。
それがつらく悲しくて、どうにか楽にしてあげたかった。だが異形自らが助けを求めてこないことには、リーゼロッテは天に還せない。だから根気よく異形のこころに寄り添った。
自分の存在に気づいてくれるまで、ただそばにいるだけだ。暗い思いに触れていると、自分も落ち込んだ気分になってくる。それでもその先にある光を信じて、リーゼロッテは決して諦めなかった。
「今日はもう終いにしろ」
「分かりましたわ、ヴァルト様」