【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
 まずはシャワーを浴びて着替えようと浴室に向かったライザは、鏡に映る自分の姿を見て思わず声をあげてしまった。

 胸元を中心に、おびただしい数の赤い痕が散っている。お腹や背中、太腿にもつけられていて、いつの間にと思わずつぶやいてしまう。

 もともとイグナートはキスマークを残すのが好きな方で、彼に抱かれたあとは肌にいくつもの赤い痕が残されていた。それでも服で隠れる場所にしかつけなかったはずの赤い印が、今日は首筋にまで残されている。

 確かにこれじゃあ一人で外は歩けなかったなとつぶやきながら、ライザは首筋の痕を指先でなぞった。

 ライザと会うのはこれで最後だし、いつもと違う場所――しかも職場でという背徳感で、イグナートも興奮したのかもしれない。

「……いつか終わる時が来るって分かってたけど、あっけないものね」

 ぽつりとライザはつぶやいた。明日、イグナートは旅立つ。数年後に旅を終えた彼が戻ってくる場所は、ここではない。

 だって、ライザはイグナートの恋人でも何でもないのだから。

 あらためて自覚した途端、胸が苦しくなった。もしも想いを伝えていたなら、この関係は何か変わったのだろうか。

 でも、自分がイグナートに相応しくないことはライザもよく分かっている。優秀な騎士団長のイグナートと、いない子扱いの伯爵令嬢であるライザ。立場が違いすぎる。

「好きだって伝えたところで、困らせるだけだもの。きっと、これでよかったのよ」

 鼻の奥がつんと痛むのを感じながら、ライザは頭からシャワーをかぶった。頬を流れ落ちるこの雫は、決して涙なんかじゃないと言い聞かせながら。



 シャワーに隠して散々涙を流したあと、ライザは重たくなった目蓋を擦りながら浴室から出た。たくさん泣いたからか、眠くてたまらない。

 部屋の中を見回すだけでイグナートとの思い出が湧き上がり、ライザはまた滲んできた涙を堪えて低く唸った。

 一緒に食事をしたテーブル、他愛ない話で盛り上がったソファ、そして彼に抱かれたベッド。どこを見てもイグナートと過ごした日々を思い出してしまう。

「……いっそのこと、引っ越したほうがいいかもしれないわね」

 ぽつりとつぶやいて、ライザは深いため息と共にベッドに腰かけた。

 起きていたらイグナートのことばかり考えてしまう。何もかも忘れてしまいたいと、ライザは濡れた髪も乾かさずにそのままベッドに倒れ込んだ。
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