【4/24書籍発売】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
 強い力を持つ聖女と、彼女を守る騎士の間には、深い絆と共に愛が芽生えたらしい。旅を終えたあと、聖女は護衛を務めた騎士と結婚するのだという噂で王都は持ち切りだ。もちろんその噂は、ホルムの町にも流れてきた。

 きっとイグナートは、聖女ヴェーラと幸せになるだろう。もう、ライザのことなんて覚えていないかもしれない。

 それでも構わない。ライザには、愛する子供がいるから。この子たちを立派に育て上げることが、今の生きがいだ。

 双子を両腕で抱え上げたライザは、そのまま部屋の中へと進む。キッチンに立っていた初老の女性が、それに気づいておかえりなさいと微笑んだ。

「ただいま、タマラさん。夕食の支度まで、ありがとうございます」

「いいのよ、二人ともとってもお利口にしていたし。今日は二人の好きなシチューにしたわ。仕上げはママにお願いするわね」

「しちゅ、すき!」

 すかさずアーラが反応するのに笑って、ライザは娘の頬にキスを落とした。

 隣の家に住んでいるタマラは、ライザが仕事の間、双子の面倒を見てくれている。彼女はかつて町の診療所で産科の医師をしており、ライザの出産を助けてくれたばかりか伝手を使って働き口まで見つけてくれた。今は引退して夫のジョレスと共にのんびり畑仕事をするのが生きがいだそうで、双子を畑に連れ出してくれたり買い出しを手伝ったりしてくれる。

 ライザと双子を娘と孫のように可愛がってくれる隣人夫婦には、ここに越してきてから世話になりっぱなしだ。

「じゃあ、ライザちゃん。戸締りはしっかりね」

「ありがとうございます、タマラさん」

 双子に手を振って帰っていくタマラを見送ると、ライザは抱っこしていた二人を床に下ろした。だが甘えん坊のパーヴェルは、離れたくないのかライザの脚にぎゅっと抱きついて動かない。

「パーヴェル、ママはご飯を作らなきゃいけないから放してくれる?」

「いや!」

 頑固そうな声でそう言って、パーヴェルは抱きつく腕に更に力を込めた。小さな手のぬくもりは心から愛おしく思うけれど、このままでは食事の支度ができない。

「今日は、パーヴェルの大好きなシチューだよ。ママ急いで作るから、少しだけあっちでご本読んでて?」

「いーや!」

 頑なな声に、ライザは苦笑した。二歳を過ぎる頃から自我が芽生えて反抗的になることがあると聞いたが、今がまさにそれだ。何を聞いても「いや」としか言ってくれないことが、最近は多い。

「んもう、しょうがないなぁ。じゃあ抱っこしよっか」

「ママ、アーラも!」

「えぇぇ……もう、二人とも甘えん坊さんなんだから」

 ため息をついて、ライザは二人をまとめて抱き上げた。さっきまで唇を尖らせていたパーヴェルも、あっという間に満面の笑みだ。タマラがいたとはいえ、二人はきっとライザをずっと待っていたのだろう。この子たちが満足するまで抱っこしていようと決めて、ライザは双子を抱きかかえたままくるくるとその場で回る。きゃらきゃらと響く笑い声が、部屋の中に満ちていった。

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