【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
週に一度の休みの日、ライザは子供たちと朝食をとっていた。
仕事のある日は朝の支度に必死だが、休日は幾分ゆっくりできる。
自分で食べるのだと主張するパーヴェルが服にスープの大半を食べさせていても、お手伝いをすると言ってきかないアーラがお茶のコップをひっくり返しても、心の余裕があるので笑っていられる。
とはいえ二人ともこれはお着替え確定だなと新しい服を手に取った時、呼び鈴が鳴った。外から聞こえる声は、隣人のタマラのものだ。
「おーちゃま!」
目を輝かせたアーラが、玄関に走っていく。「おばさま」とうまく言えない双子たちの、たどたどしい呼び方が可愛くてたまらないと、彼女はいつも喜んでくれる。ちなみに、ジョレスのことは「おじさま」と呼んでいるつもりの「おいしゃま」だ。
「アーラ、お着替えが先よ!」
慌てて追いかけて抱き上げると、アーラは不満げな声をあげた。機嫌が悪ければこのまま大号泣だが、タマラの来訪に喜んでいたからか、そこまで機嫌を損ねなかったようだ。濡れた服を手早く脱がせて新しいワンピースを着せると、アーラは一目散に扉へと向かっていく。
そのうしろを追いかけていくパーヴェルを捕まえながら、ライザは扉を開けた。
「おはよう、ライザちゃん。双子ちゃんたちは、今日も元気ねぇ」
飛びついてきたアーラを抱き上げて、タマラが笑う。自分もタマラの元へ行くのだと暴れるパーヴェルの服を着替えさせつつ、ライザは眉尻を下げた。
「おはようございます、タマラさん。朝からうるさくて、すみません」
「いいのよ、子供は元気が一番。畑で採れた野菜を持ってきたの。今朝焼いたパンもあるから、ぜひ食べて」
「パンたべる!」
一番に手を挙げたのは、食いしん坊のパーヴェルだ。彼は、タマラの作るパンが大好物なのだ。
「じゃあ、二人ともこちらへいらっしゃい。ママにゆっくりご飯を食べさせてあげて」
そう言って、タマラが飛びついてきた双子を抱きかかえた。ライザがまだ一口も食べていないことに、彼女は気づいていたらしい。
タマラが双子にパンを食べさせてくれている間に、ライザは急いで自分の食事を終えた。
満腹になった双子は、リビングで機嫌よく遊び始める。束の間の静かな時間にホッとしながら、ライザはコーヒーを淹れた。
「ありがとうございます、助かりました」
「いつでも頼ってちょうだい。わたしたち夫婦も、あの子たちに会うのを楽しみにしているんだから」
優しいタマラの言葉に感謝しながら、ライザはコーヒーを啜った。子供たちの起きている時間に、こうして熱いコーヒーを飲むなんていつぶりだろうか。
口の中に広がる苦みを堪能していると、タマラがそういえばとつぶやいた。
「ライザちゃん、子供たちに紅熱病の予防薬を飲ませるつもりはある?」
「え? 予防薬……ですか」
聞いたことのない話に、ライザは首をかしげる。紅熱病といえば乳幼児がかかりやすい病気のひとつで、幼くして亡くなる子供の死因のうち、かなりの割合を占めていると聞く。治療薬はあるが高価なため、平民の子は薬を買えずに亡くなることも多いはずだ。ライザも、万が一双子が紅熱病にかかったらすぐに薬を買えるようにと、お金を貯めている。だが、予防薬があるというのは知らなかった。
ライザの表情を見て、なにも知らないことを悟ったのだろう。タマラは身を乗り出して説明を始めた。
「五年ほど前に薬が開発されて、子供が三歳になる前に飲ませるようになったのよ。治療薬よりも安価だし、発症を防ぐ効果がかなりあるっていうから、あの子たちにも飲ませた方がいいんじゃないかと思って」
「全然知らなかった……。紅熱病を予防できるなら、ありがたいですね」
「そうでしょう。ただ、まだ広く出回っているわけじゃないから、薬を取り扱っているのは王都の病院だけなんだけど」
「王都に……」
どきりと胸が高鳴ったのを隠すように、ライザはコーヒーを飲んだ。
かつての同僚や両親、そしてイグナートのいる場所。もう二度と足を踏み入れることはないと思っていたのに。
タマラの知人が王都で診療所を開いており、そこで薬を処方してもらうことができるそうだ。場所は王都の外れなので、見知った顔に会う可能性は低いかもしれない。
ライザの個人的な事情で、子供たちに医療を受けさせる機会を排除するわけにはいかない。少し考えたあと、ライザは王都に行くことを決めた。
「ライザちゃんさえよかったら、わたしも同行させて。双子ちゃんを連れての長距離移動は大変だもの。子守や荷物持ちくらいはできるわ」
「いいんですか……? ものすごく、助かります」
「わたしも、ちょうど買い出しに行きたいと思っていたところなのよ」
にっこりと笑うタマラに感謝しながら、ライザは次の休みに子供たちを連れて王都に行くことを約束した。
仕事のある日は朝の支度に必死だが、休日は幾分ゆっくりできる。
自分で食べるのだと主張するパーヴェルが服にスープの大半を食べさせていても、お手伝いをすると言ってきかないアーラがお茶のコップをひっくり返しても、心の余裕があるので笑っていられる。
とはいえ二人ともこれはお着替え確定だなと新しい服を手に取った時、呼び鈴が鳴った。外から聞こえる声は、隣人のタマラのものだ。
「おーちゃま!」
目を輝かせたアーラが、玄関に走っていく。「おばさま」とうまく言えない双子たちの、たどたどしい呼び方が可愛くてたまらないと、彼女はいつも喜んでくれる。ちなみに、ジョレスのことは「おじさま」と呼んでいるつもりの「おいしゃま」だ。
「アーラ、お着替えが先よ!」
慌てて追いかけて抱き上げると、アーラは不満げな声をあげた。機嫌が悪ければこのまま大号泣だが、タマラの来訪に喜んでいたからか、そこまで機嫌を損ねなかったようだ。濡れた服を手早く脱がせて新しいワンピースを着せると、アーラは一目散に扉へと向かっていく。
そのうしろを追いかけていくパーヴェルを捕まえながら、ライザは扉を開けた。
「おはよう、ライザちゃん。双子ちゃんたちは、今日も元気ねぇ」
飛びついてきたアーラを抱き上げて、タマラが笑う。自分もタマラの元へ行くのだと暴れるパーヴェルの服を着替えさせつつ、ライザは眉尻を下げた。
「おはようございます、タマラさん。朝からうるさくて、すみません」
「いいのよ、子供は元気が一番。畑で採れた野菜を持ってきたの。今朝焼いたパンもあるから、ぜひ食べて」
「パンたべる!」
一番に手を挙げたのは、食いしん坊のパーヴェルだ。彼は、タマラの作るパンが大好物なのだ。
「じゃあ、二人ともこちらへいらっしゃい。ママにゆっくりご飯を食べさせてあげて」
そう言って、タマラが飛びついてきた双子を抱きかかえた。ライザがまだ一口も食べていないことに、彼女は気づいていたらしい。
タマラが双子にパンを食べさせてくれている間に、ライザは急いで自分の食事を終えた。
満腹になった双子は、リビングで機嫌よく遊び始める。束の間の静かな時間にホッとしながら、ライザはコーヒーを淹れた。
「ありがとうございます、助かりました」
「いつでも頼ってちょうだい。わたしたち夫婦も、あの子たちに会うのを楽しみにしているんだから」
優しいタマラの言葉に感謝しながら、ライザはコーヒーを啜った。子供たちの起きている時間に、こうして熱いコーヒーを飲むなんていつぶりだろうか。
口の中に広がる苦みを堪能していると、タマラがそういえばとつぶやいた。
「ライザちゃん、子供たちに紅熱病の予防薬を飲ませるつもりはある?」
「え? 予防薬……ですか」
聞いたことのない話に、ライザは首をかしげる。紅熱病といえば乳幼児がかかりやすい病気のひとつで、幼くして亡くなる子供の死因のうち、かなりの割合を占めていると聞く。治療薬はあるが高価なため、平民の子は薬を買えずに亡くなることも多いはずだ。ライザも、万が一双子が紅熱病にかかったらすぐに薬を買えるようにと、お金を貯めている。だが、予防薬があるというのは知らなかった。
ライザの表情を見て、なにも知らないことを悟ったのだろう。タマラは身を乗り出して説明を始めた。
「五年ほど前に薬が開発されて、子供が三歳になる前に飲ませるようになったのよ。治療薬よりも安価だし、発症を防ぐ効果がかなりあるっていうから、あの子たちにも飲ませた方がいいんじゃないかと思って」
「全然知らなかった……。紅熱病を予防できるなら、ありがたいですね」
「そうでしょう。ただ、まだ広く出回っているわけじゃないから、薬を取り扱っているのは王都の病院だけなんだけど」
「王都に……」
どきりと胸が高鳴ったのを隠すように、ライザはコーヒーを飲んだ。
かつての同僚や両親、そしてイグナートのいる場所。もう二度と足を踏み入れることはないと思っていたのに。
タマラの知人が王都で診療所を開いており、そこで薬を処方してもらうことができるそうだ。場所は王都の外れなので、見知った顔に会う可能性は低いかもしれない。
ライザの個人的な事情で、子供たちに医療を受けさせる機会を排除するわけにはいかない。少し考えたあと、ライザは王都に行くことを決めた。
「ライザちゃんさえよかったら、わたしも同行させて。双子ちゃんを連れての長距離移動は大変だもの。子守や荷物持ちくらいはできるわ」
「いいんですか……? ものすごく、助かります」
「わたしも、ちょうど買い出しに行きたいと思っていたところなのよ」
にっこりと笑うタマラに感謝しながら、ライザは次の休みに子供たちを連れて王都に行くことを約束した。