【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
「そんな……まさか、ずっと俺の片想いだった……? ライザは俺のことをセフレだと思っていたってことか……?」

 一気に萎れてしまったイグナートの身体は、見たことがないほどに小さく見える。

「俺、ライザに治療してもらってからずっと好きだったのに。酒場で見かけた時は驚いたけど、チャンスだとも思った。だけど酔った勢いでの関係になりたくなかったから、ちゃんと想いを伝えて、ライザが笑って受け入れてくれた時は天にも昇る心地だったのに」

「ご、ごめんなさい……全然覚えてない……。っていうか、あなたの治療をしたことも、本当だったの?」

 なんだか申し訳ない気持ちになりつつ問いかけると、イグナートはまたもやショックを受けた顔になった。

「それも覚えてなかったのか……。まぁ、あの時の俺は魔獣の返り血を浴びて顔が汚れていたから、分からなくても仕方ないが」

 その言葉を聞いて、ライザの頭の中に血まみれになっていた騎士の姿が浮かぶ。まだまだ新人の癒し手だった頃、治療に駆り出された時のこと。部下を庇って重傷を負った騎士の治療をした。聖女は他の重傷者の治療にあたっており、どんなに頑張ってもライザの力では傷口を塞ぐのが精一杯だった。

 申し訳ない気持ちになりつつ、せめて回復の手助けになればと持参していた回復薬を渡したのを覚えている。 

「あの時の騎士は、イグナートだったのね……。全然気づかなかった」

「必死に傷を治そうとしてくれたライザの真剣な表情がかっこよくて、傷が塞がった時の安心したような笑顔が可愛くて、俺はずっと見惚れていたよ。あの時から俺は、ライザのことが誰よりも好きだ」

 イグナートは手を伸ばして、ライザの手を包み込むように握りしめた。

「ライザは覚えてないかもしれないけど、酒場で会ったあの夜にも、この話をした。あの時と同じ言葉を、もう一度伝えさせてくれ」

 心を落ち着けるようにふうっと長い息を吐いたあと、イグナートはまっすぐにライザを見つめた。真剣なその表情に、ライザの鼓動も速くなる。

「ライザのことが、好きだ。どうか、俺の恋人に……いや、今はきみと家族になりたい。これまで一緒にいられなかった分、あの子たちもライザも、俺が幸せにしたい。俺と、結婚してほしい」

 真摯に告げられた言葉が、ゆっくりとライザの心の奥に染み込んでいく。目に浮かんだ涙を瞬きで堪えて、ライザはイグナートを見つめ返す。

「本当に……私でいいの? だって、子持ちの伯爵令嬢が相手だなんて、この上なく外聞が悪いわ。リガロフ家の評判を落としてしまうかもしれない……」

「俺も、うちの家も、そんなこと誰も気にしない。むしろ、ライザと子供たちをどうして今まで放っておいたんだって俺が叱られるだろうな」

「でも、うちの両親がなんて言うか……。リガロフ家と縁ができることは喜ぶでしょうけど、子供たちのことだって知らせていないの」

 普段は空気のような扱いを受けていても、ライザは伯爵家の娘だ。イグナートの求婚を受け入れるなら、両親に報告は必須だろう。未婚の母であることが知られたら、なにを言われるか分からない。

「きみのご両親は俺が説得してみせるし、叱責だって全部受け止める。ライザを手に入れるためなら、俺はなんだってする」

 強い口調で言い切られて、ライザは一度目を閉じてうなずいた。その拍子に、涙が頬をこぼれ落ちる。

「……私も、ずっとイグナートのことが好きだったの。だけど身体だけの関係だと思っていたから、想いを伝えて困らせたらだめだって言い聞かせていたわ。子供ができた時だって、戸惑いはしたけど、嬉しくもあったの。二人はイグナートによく似ていて、本当に可愛いわ。子供の顔を見るたびにイグナートのことを思い出して、忘れることなんてできなかった」

 あとからあとから流れ落ちる涙をそのままに、ライザは泣き笑いの表情を浮かべる。

「もしも、イグナートとこれからも一緒にいられるなら、すごく嬉しい」

 しゃくりあげつつそう伝えると、イグナートは勢いよく立ち上がった。はずみで椅子ががたんと大きな音を立てて倒れるが、それに構うことなく彼はライザのそばまでやってくる。

「ずっと、一緒にいる。もう離れない。絶対に離さない」

 大きな身体に抱きしめられて、ライザの瞳には新たな涙が浮かんだ。瞬きをすれば、涙の粒は頬を滑ってイグナートのシャツに吸い込まれていく。

 ライザもゆっくりと手を伸ばして、イグナートの背に腕を回した。

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