【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
 小さなテーブルに向かい合って、二人で朝食をとる。

 イグナートが買ってきてくれたのは、ライザの好物であるチキンのクリーム煮と、卵のサラダ。パンは自宅に買い置きしてあったものだ。

 テーブルもメニューも貴族の食事とは思えない質素さだが、騎士団では野営も多いからかイグナートは特に気にしていないようだ。ライザも実家にいた頃から食事は一人だったので、誰かと食事をすることが嬉しいくらいだ。

「あ、そうだわ」

 ふとポケットの中の魔石を思い出して、ライザはそれを取り出すとテーブルの上に置いた。

「これ、昨日イグナートが渡してくれたやつ。返すわね」

「え? どうして」

「どうして……って、こんな高価な魔石、もらう理由がないわ。話しかけるきっかけとして使うには、高すぎるわよ。書類を落とした、とかでよかったのに」

 青と緑のグラデーションが美しいその魔石は、回復薬の原料としても使われるものだ。必須の材料ではないのだが、この魔石を使ったものは強い回復効果を持つ。美しい見た目からアクセサリーの材料に使われることも多く、そのせいで最近は少し手に入りにくいのが難点だ。

「それは、俺がライザにあげたものだから」

「でも」

「ほら、俺たちふたりの瞳の色みたいだろう。だから、あげる」

「そう……? それなら、ありがたくいただくけど」

 ありがとうと微笑んで、ライザは魔石を手に取った。艶々とした丸い魔石は美しく、アクセサリーにしたがる人が多いというのもうなずける。

「よければそれで指輪とか、」

「じゃあ早速、調合に使っちゃおうっと」

 思わず浮かれて魔石に口づけたライザは、同時にイグナートが何か言ったような気がして首をかしげた。

「何か、言った?」

「いや……、何もない。いい回復薬ができるといいな」

「うん。貴重なものなのに、ありがとう」

 効果の強い回復薬は、危険な任務に赴くこともある騎士団にも多く納品される。イグナートが使うことも、あるかもしれない。もちろん回復薬を使うような怪我をしないことが一番いいけれど、後方支援として彼の力になれることは嬉しい。

 ライザは、魔石を再びポケットに大事にしまい込んだ。



 食事を終えたあと、イグナートが帰り支度を始めた。さすがに一緒に出勤するところを見られるわけにはいかないし、彼は朝一番で会議があるのだという。

「じゃあ、また」

「うん」

 玄関で、イグナートは名残惜しそうにライザの腰を抱き寄せた。触れるだけのキスを交わして、ライザは彼を見上げる。

「お仕事頑張って」

「ライザも。明後日、また会えると嬉しい」

「分かったわ。その日、私は早上がりの日だから、食事を作っておくわね」

「楽しみにしてる」

 もう一度キスをして、イグナートはライザの髪を撫でると扉を開けて出て行った。

 一歩外に出れば、彼はきっと完璧で生真面目な騎士団長の顔になる。

 ここで見せる甘い表情や明るい笑い声は、ライザだけのもの。

 イグナートがここに来ない日、彼がどこで夜を過ごしているのかは知らない。

 自宅で過ごしているのかもしれないし、ライザみたいな他のセフレのところにいるのかもしれない。

 彼から他の女性の影を感じたことは一度もないけれど、それは単に隠すのが上手なだけなのかもしれない。

 この部屋では、イグナートはライザだけに甘く優しく微笑んでくれる。

 それに縋っている自分が時々空しくなるけれど、それでもそばにいたいと思ったのだ。

 ふいにこみ上げた涙を瞬きすることで堪えて、ライザは彼の行方を見送るように玄関の扉をじっと見つめ続けた。
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