私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ



ノートパソコンを弄りながらソファの端っこで休んでいればノックもせず開かれるドア。


『今日は有名なケーキ屋のチョコケーキを持ってきたわよ!』


『お前は静かに入ってこれねーのかよ』


『いいからいいから!アンタも食べてみなさいよ』


チョコケーキの乗ったフォークをこちらに向けるこいつ。





いつからだろうか。こいつの差し出す食べ物をすんなりと受け入れるようになったのは。


まぁ、こいつが持ってくるもので外れはないしな。


『どう!?どう!?』


『・・・悪くない』


こんな曖昧な返事にさえ嬉しそうにするこいつ。


『でしょ〜?アンタの好みはもう把握済みだからね!』


そう言って自分の分を口にする。


『・・・ねぇ』


返事もせず話だけを聞く。そんな事もこいつは分かっているから気にせず続けるのだろう。


だけどお前は知らないだろ?








『幸せに味があるとしたら、こんな味だと思うの』





嬉しそうに笑うお前を俺はちゃんと見ていたことに。
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