私は✕✕を知らないⅡ
「────────、────────」
「────!────────?」
朦朧とする意識の中、薄く瞼を開ければ視界の端に皇の顔が映った。
酷く険しい顔をしている。
怒っているんだろう。
呆れているのかもしれない。
けれど。
自分を抱き抱える腕は、不思議なくらい丁寧だった。
落とさないように。
壊さないように。
・・・なんて。
そんな風に扱われる理由なんて、分からない。
「……へぇ」
レンの声が遠くで聞こえる。
「随分気に入られてんじゃん」
面白がるみたいな声音。
それに対する皇の返事は聞こえなかった。
ぼやける視界の中、ただ一定の熱だけが伝わってくる。
温かい。
知らない感覚だった。
優しくされた事ならある。
守られた事だって、一度も無かった訳じゃない。
けれど、それとは違う。
何かを期待されるでもなく。
何かを返せと求められるでもなく。
ただここに居る自分を抱き締めるみたいな熱。
そんなもの、知らない。
知らない、はずなのに。
「・・・すめ、ら」
掠れた声が零れる。
「喋んな」
返ってきた声は短い。
なのに、不思議なくらい安心する。
腕に込められる力が少しだけ強くなる。
逃がさないように。
それでいて苦しくない程度に。
このまま寝てていいんだ、って。
まるで、大切なものみたいに。
────あぁ。