私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ







「────────、────────」


「────!────────?」


朦朧とする意識の中、薄く瞼を開ければ視界の端に皇の顔が映った。


酷く険しい顔をしている。


怒っているんだろう。


呆れているのかもしれない。


けれど。


自分を抱き抱える腕は、不思議なくらい丁寧だった。


落とさないように。


壊さないように。


・・・なんて。


そんな風に扱われる理由なんて、分からない。


「……へぇ」


レンの声が遠くで聞こえる。


「随分気に入られてんじゃん」


面白がるみたいな声音。


それに対する皇の返事は聞こえなかった。


ぼやける視界の中、ただ一定の熱だけが伝わってくる。


温かい。


知らない感覚だった。


優しくされた事ならある。


守られた事だって、一度も無かった訳じゃない。


けれど、それとは違う。


何かを期待されるでもなく。


何かを返せと求められるでもなく。


ただここに居る自分を抱き締めるみたいな熱。


そんなもの、知らない。


知らない、はずなのに。


「・・・すめ、ら」


掠れた声が零れる。


「喋んな」


返ってきた声は短い。


なのに、不思議なくらい安心する。


腕に込められる力が少しだけ強くなる。


逃がさないように。


それでいて苦しくない程度に。


このまま寝てていいんだ、って。


まるで、大切なものみたいに。


────あぁ。
< 282 / 284 >

この作品をシェア

pagetop