私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ
そんな願いが届いたかのように綾波さんは毎日お見舞いに来てくれた。


忙しいみたいで1時間程で帰ってしまうけど僕はそれだけで嬉しかった。


この時間を楽しみにしている僕がいたんだ。



「綾波さん・・・」


だけど綾波さんが帰った後に思うことがある。そう、お兄ちゃんにも会いたいな、って。


「お兄ちゃん元気にしてる?」


この日もお見舞いに来てくれた綾波さんに恐る恐る聞く。僕の所に来てくれなくても、学校に行って皆と元気に過ごしてたらそれでいいやって。


だけど僕はどこかで気づいていたんだ。





「ごめんなさい。・・・私も会えてなくて」


綾波さんは困ったように答える。僕は驚きもしなかった。


その代わりに頬を何かが零れて。


「あれ、」


それが涙だと気付いても止まってくれない。


綾波さんは黙って僕の背中をさすってくれている。そのせいもあってかいつもは口にしないような感情が溢れ出て止まらない。


「僕のせいで、お兄ちゃん良くない方法でお金をもらってるんだよねッ?僕のせいでっ、お兄ちゃんが自分のこと大切にできてないんだよね・・・っ」


それなら、


「僕なんて、生まれて来なけ──」


生まれて来なければ良かった。


その言葉を続けることは出来なかった。
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