だから愛は嫌だ~虐げられた令嬢が訳あり英雄王子と偽装婚約して幸せになるまで~
17 ライオネルは心が広い
(すごくきれい……あら? 花びらの数や色が、前より増えているわ)
これまで降っていた花びらはピンク色だけだった。しかし、今降ってきた花びらにはオレンジ色や赤色が交ざっている。
(この花びらの意味も、いつか分かるかしら?)
客室の扉がノックされた。扉の向こうから「カーラです。戻りました」と声がする。
(法律に詳しい方を連れてきてくださったのね)
ライオネルにお礼を言おうとした瞬間、ディアナはライオネルが仮面を外したままなことに気がついた。
「殿下、お顔が!」
ライオネルが仮面を手に取る様子はない。ディアナは、慌ててソファーから立ち上がると仮面を手に取り、ライオネルの顔に仮面を押し当てる。
その結果、ディアナはライオネルに寄りかかるような姿勢になってしまった。
そんな二人を見たカーラは、また羽ペンを落とし、その後ろをついてきていた男性騎士の腕から分厚い本が滑り落ちていく。
「た、たたた大変失礼しました! 出直してきます! ごゆっくり!」
慌てて部屋から出て行こうとする二人を、ライオネルの落ち着いた声が制した。
「退出は許さない。職務を全(まっと)うしろ」
「えっ!? は、はい!」
敬礼する二人を横目に、ライオネルはディアナの手首にそっと触れた。
「ディアナ嬢。心配させてすまない。オレの説明不足だったな」
ライオネルの表情は、どこか優しい。
「俺は部下の前では仮面をつけていないんだ。だから、そんなに慌てる必要はない」
「そう、だったのですね……」
ホッと胸を撫で下ろした瞬間、ディアナは自分の手がライオネルの胸板に触れていることに気がついた。弾かれたようにライオネルから距離を取る。
「また殿下にご無礼を!」
「気にするな。俺も気にしない」
ライオネルは、そう淡々と返したが彼の蝶は、いろんな言葉を言いすぎて聞き取れない。しかし、それらの言葉に怒りは含まれていなさそうだ。
(私が失敗しても殿下は許してくださるのね。これがロバート様だったら、きっとまた怒鳴られていたわ。殿下はなんてお心が広い方なのかしら……)
羞恥と共にライオネルの優しさに感動してうつむいていると、ライオネルの蝶から『泣いてる?』と聞こえてきた。
「泣いてません!」
ディアナが顔を上げると、驚いた様子のライオネルと視線が合った。
(しまった! 今のは殿下のお言葉ではなく、蝶の言葉だったわ!)
聞こえていないはずの言葉に、つい返事をしてしまった。
ライオネルが「不思議だ」と呟いたので、ディアナの鼓動は不安から速くなる。
「あなたは、俺の兄にどこか似ている」
「わ、私が王太子殿下にですか?」
「ああ、どこがとははっきり言えないが……雰囲気かな? まぁいい、それより法に詳しい者がきたので、あなたの相談に話を戻そう」
「ありがとうございます」
ディアナは内心、話題を変えてくれて助かったと思いながら、こっそり息を吐いた。
カーラが呼びに行ってくれた法に詳しい者は、ライオネルの騎士団で事務や法務を担当しているものだそうだ。
カーラと同じデザインの騎士服に身を包んだ青年は、ディアナに向かって礼儀正しく「グレッグです」と名乗る。
「ディアナ・バデリーです。ご相談したいことがあるのですが、その、爵位の継承についてなのですが……。他言しないでいただけますか?」
グレッグは、「もちろんです。ご安心ください」と人懐こそうな笑みを浮かべた。
これまで降っていた花びらはピンク色だけだった。しかし、今降ってきた花びらにはオレンジ色や赤色が交ざっている。
(この花びらの意味も、いつか分かるかしら?)
客室の扉がノックされた。扉の向こうから「カーラです。戻りました」と声がする。
(法律に詳しい方を連れてきてくださったのね)
ライオネルにお礼を言おうとした瞬間、ディアナはライオネルが仮面を外したままなことに気がついた。
「殿下、お顔が!」
ライオネルが仮面を手に取る様子はない。ディアナは、慌ててソファーから立ち上がると仮面を手に取り、ライオネルの顔に仮面を押し当てる。
その結果、ディアナはライオネルに寄りかかるような姿勢になってしまった。
そんな二人を見たカーラは、また羽ペンを落とし、その後ろをついてきていた男性騎士の腕から分厚い本が滑り落ちていく。
「た、たたた大変失礼しました! 出直してきます! ごゆっくり!」
慌てて部屋から出て行こうとする二人を、ライオネルの落ち着いた声が制した。
「退出は許さない。職務を全(まっと)うしろ」
「えっ!? は、はい!」
敬礼する二人を横目に、ライオネルはディアナの手首にそっと触れた。
「ディアナ嬢。心配させてすまない。オレの説明不足だったな」
ライオネルの表情は、どこか優しい。
「俺は部下の前では仮面をつけていないんだ。だから、そんなに慌てる必要はない」
「そう、だったのですね……」
ホッと胸を撫で下ろした瞬間、ディアナは自分の手がライオネルの胸板に触れていることに気がついた。弾かれたようにライオネルから距離を取る。
「また殿下にご無礼を!」
「気にするな。俺も気にしない」
ライオネルは、そう淡々と返したが彼の蝶は、いろんな言葉を言いすぎて聞き取れない。しかし、それらの言葉に怒りは含まれていなさそうだ。
(私が失敗しても殿下は許してくださるのね。これがロバート様だったら、きっとまた怒鳴られていたわ。殿下はなんてお心が広い方なのかしら……)
羞恥と共にライオネルの優しさに感動してうつむいていると、ライオネルの蝶から『泣いてる?』と聞こえてきた。
「泣いてません!」
ディアナが顔を上げると、驚いた様子のライオネルと視線が合った。
(しまった! 今のは殿下のお言葉ではなく、蝶の言葉だったわ!)
聞こえていないはずの言葉に、つい返事をしてしまった。
ライオネルが「不思議だ」と呟いたので、ディアナの鼓動は不安から速くなる。
「あなたは、俺の兄にどこか似ている」
「わ、私が王太子殿下にですか?」
「ああ、どこがとははっきり言えないが……雰囲気かな? まぁいい、それより法に詳しい者がきたので、あなたの相談に話を戻そう」
「ありがとうございます」
ディアナは内心、話題を変えてくれて助かったと思いながら、こっそり息を吐いた。
カーラが呼びに行ってくれた法に詳しい者は、ライオネルの騎士団で事務や法務を担当しているものだそうだ。
カーラと同じデザインの騎士服に身を包んだ青年は、ディアナに向かって礼儀正しく「グレッグです」と名乗る。
「ディアナ・バデリーです。ご相談したいことがあるのですが、その、爵位の継承についてなのですが……。他言しないでいただけますか?」
グレッグは、「もちろんです。ご安心ください」と人懐こそうな笑みを浮かべた。