朝から月まで
家出
最近家ではずっと六人の団らんが続いていた。朝陽のつわりが落ち着き、夕飯をまた一緒に食べられるようになったから。
だが今日、朝陽は居間にいなかった。
愛子が部屋まで呼びに行ったが、いらないと言う。ため息をつきながら一階まで下りて居間に戻って来ると、月の隣に座った。
「また喧嘩?」
呆れたような心配しているような表情で訊ねられる。結と星には聞こえないように小声だったが、結は何を話しているのか気にしていた。
「結ちゃん、おなかすいたね」
星に話しかけられて、「し」と人差し指を口の前で立て、目線で愛子と月を見るように促す。それでも星はよく分かっていなかった。静かにするようにと合図を出されたので、とりあえず黙ろうと口に両手を当てて頷いた。
結の視線の先で月は愛子の問いに答えていた。
「喧嘩じゃないけど……」
「じゃあ、何で朝陽下りてこないの?」
「俺に訊かれても……」
「はっきりしないさいよ」
さっきよりも強めの口調で言われる。だが、簡単に話せる内容ではない。どう説明しようかと思案するが、思い浮かばなかった。
「おお~、今日は肉じゃがか。美味そうだなぁ」
そこへ久史が自室からやって来た。のんきに笑顔で言いながら座る。
「まったく、おじいちゃんは……」
結が小声でつぶやいて頭を抱える。星は不思議そうにそんな結を見ていた。
愛子もそれ以上月を追及出来ず、断念。いつもの定位置へ戻った。
「どうした?」
「何でもない」
何かがおかしいが何がおかしいのか分からず、娘に訊ねたが返ってきたのは、諦め。
「朝陽は?」
もう一つの疑問を投げると、愛子はさらに不機嫌になった。
「いらないって」
「そうか……また体調が悪いのかな」
言いながら二階へ続く階段の方を見上げる。
そこでお腹の鳴る音が聞こえた。
「おなかすいた……」
星が目の前の食事を穴が空くほど見ながらつぶやく。
「そうだったな。食べよう」
久史が笑顔で言うと、星も笑顔で頷いた。五人で手を合わせて食事を開始する。
月が箸をつけようとした時、愛子が小声で話しかけてきた。
「喧嘩したなら早く仲直りしなさいよ」
喧嘩をしているつもりは全くない。納得いかないが、とりあえず頷いておいた。
その時、階段の方から音がした。
「お、朝陽が下りて来たぞ~。腹が減ったのかな」
久史は嬉しそうに言いながら廊下へ声をかける。
「朝陽~、今日は肉じゃがだぞ~」
「いらない」
「え、いらないの?」
笑顔から一転、驚きに変わる。朝陽は玄関へ向かった。そんな朝陽を追って、久史も玄関へ向かう。よく見ればよそ行きの格好をしていて、いつも学校へ持って行くリュックを背負っている。今は夜の七時すぎ。こんな時間に学校に用事だろうか。
「どうしたの?」
「ちょっと……そのうち帰る」
「そのうちって?」
「いってきます」
「え、朝陽――」
朝陽は久史から逃げるように玄関を出て行った。
「朝陽ちゃんどうしたの?」
後を追ってきたのは意外にも結。
「いやぁ……」
どう答えていいのか分からず、久史は何も言えなかった。
次いで愛子が玄関までやってくる。
「朝陽は?」
「出て行った」
「え!? 何で引き止めないのよ!!」
言いながら愛子は慌ててサンダルを履き、玄関の戸を開け、庭を走り、道へ出る。左右を確認したが、朝陽は見当たらなかった。