朝から月まで
結と星
愛子の娘である結は、十歳の小学四年生。久史の義娘であり、月の実妹である星も同い年のため、二人は双子のように仲がいい。
それぞれの見た目は、結がボブヘアでつり目、星がロングヘアでたれ目。服装は、結は暖色系を好み、スカートが多く、星は寒色系を好み、パンツが多い。性格については、結は年の割にしっかりしていて堂々としているが、星は結の背中に隠れている小心者。見た目も性格も真逆だったが、お互いを必要としていた。
久史と一緒に居間で食卓を囲んでいると、月が下りてきて定位置に座った。その顔は浮かない。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
星が訊いてみる。
「――何でもないよ」
いつもの安心させようとする笑顔が返ってきた。だが、食卓に着いた割に箸は進んでいない。
星は結に視線を送った。しっかりとした頷きが返ってくる。それに頷いて返した。
「お兄ちゃん、肉じゃがおいしいよ」
座卓の上の肉じゃがを指さしながら再び話しかけると、また笑顔が返ってくる。
「そっか。食べてみるよ」
話しかけなければどこかへトリップしてしまう。
「食べさせてあげようか?」
「自分で食べられるよ」
星の気づかいにまた我に返って、気づく――心配をかけていると。兄として情けない姿は見せたくない。肉じゃがを頬張った。
「うん。美味い」
月は星にそう声をかける。星は「うん」と嬉しそうに笑いながら同じく肉じゃがを口にした。
「肉じゃが……朝陽も好きなのになぁ」
久史が朝陽のために用意された食事を見ながらボソッと口にすると、また月の表情が曇る。
「朝陽ちゃん、ご飯食べないの?」
結が久史に話しかける。
「妊娠すると食べられなくなるんだよ」
「何で?」
「つわりっていってね。今まで好きだったものでも食べられなくなるんだ」
「ふーん」
その説明では分からないと思いながらも結は何かを考えている。
「だから、ママが食べられそうなものを買いに行ったんだよ」
「そうなんだ」
とりあえず母親が出かけて行った理由はなんとなく分かった。
「好きなものが食べられなくなるのはイヤだなぁ」
今度はボソッと結がつぶやき、肉じゃがを口に運んだ。
「それって見るだけでもイヤなの?」
「そうだな――」
「見るのもイヤだから下りてこないんじゃない?」
星の疑問に答えたのは久史ではなく、結だった。久史はたじろぐ。
「そっか……こんなにおいしいのにね」
「おいしいどころじゃなくなるんだよ、たぶん」
星の子どもっぽい質問に対し、結の大人びた返答。久史と月は顔を見合わせた。結にはよく驚かされる。
「朝陽ちゃん大変だなぁ」
「大変だね……」
結と星は顔を見合わせ、食事を再開した。
そんな様子を見てから、月と久史は顔を見合わせるこっそり微笑ましく思っていた。