上手く生きてるように見せかけて実は上手く生きれてない
10月とは思えないほど暑くなった昼間、
営業に出ていた彼がぬぼう、と帰ってきた。こう言う妖怪いるよね。
「取れた」
「え!? あのアニメとのコラボ!?」
ゆるりとした彼の報告に、思わず私は立ち上がり、他3名残っていた社員たちも顔を上げる。
「ど、どうやって!?」
「推しカラーのウォーキングシューズ、カラーバリエーション20色行けますよって。
聖地巡礼やスタンディングのライブにどっすか、って」

オタクであることを最大限に利用するうちの同期。恐ろしい。

「腹減った」

彼は持っていた書類の入った透明なファイルを、昼食中で席を外している課長の茶色のひょうたんみたいな形のデスクにぺいっと投げ、
「お昼食べた?」
と、私をふり向く。だるそうな顔で。
「まだ。書類作ってた」
「それソフト使うと楽だ。あとで教えてあげる。まず社食行こ」
「うん」

連れ立って社食へ向かう。白いオフィスを出て廊下をほてほて歩き、エレベーターの前で止まる。
「取引先の方がガチのミュージカルオタクでさ。話盛り上がった」
「そうなんだ」

この同期にとってオタクであることは最大のアドバンテージであり武器だ。
きっとこいつは自分がオタクであることを誇りに思っている。

「アンタの推し元気?」
「うん。元気。今度、アイドルのバックダンサーで上海行く」
「おお、良いねぇ。行くの?」
「行けるか」
ちなみに、

私はとあるダンサーのライト層オタク。推しは違えどこの同期と同じ匂いをさせている -
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