アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 張り詰めた空気の中。誰も、次の言葉を見つけられずにいた。その時。

「……なるほど」

 静かに口を開いたのは、ジュリアンだった。
 彼は両手を首の後ろで組んでいたが、一歩前に出ると姿勢を正した。

「ハリ殿は、ルゥアンダ帝国の血を引く──皇子で間違いないですね?」

 確認する様に言葉を強めつつ、返答を待たずに続ける。

「でしたら立場が変わる。今まで通りの態度では、さすがに失礼にあたりますね。知らなかったとはいえ、これまでの無礼は……どうか不問にしていただけると助かります」

 軽く肩をすくめてほんの少しだけ砕けた調子。
 張り詰めていた空気が少し緩む。冗談めかしたようでいて、線引きは明確だった。そして、見据える様に視線を細める。

「少なくとも──敵ではない。それが分かっただけでも、十分な収穫です」
(そうだろ? アーサ……)

 互いの脳裏にブラッドフォードの姿がよぎる。

「オゥ鉱脈都市が再建の最中にある今、ハリ殿のような方が味方でいてくださるなら……心強いでしょう」

 僅かに笑みを含ませて。
 そしてちらりと、スズランを見る。

「それと……スズラン嬢とのわだかまりは、今のうちに解いておいた方がよろしいかと」

 柔らかい言い回し。
 だがその実、逃げ場はない。
 ジュリアンのキッパリとした物言いに弾かれた様に顔を上げるラインアーサ。

「ジュリアン……」

 ハリは一瞬だけ瞼を伏せた。
< 75 / 76 >

この作品をシェア

pagetop