アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 再度訪れる静寂──。
 そんな静けさの中、鈴の様な声が頼りなく震える。

「ハリさん……どうして、そんな顔をしてるの?」

 その言葉に、胸の奥で何かが弾ける。

(……やめろ)

 勝手に踏み込むな。触れるな。
 言葉にならない感情が、鋭く込み上げる。

「……どのように見えるのか分かりませんが、貴女の気のせいでしょう」

 どこまでも冷静に言葉を返す。
 波紋ひとつない、よそゆきの声音で。

「ハリさん……」

 スズランの声が不安げに己の名を呼ぶ。
 どうしたら良いのか分からないのだろう。
 何が最適なのか、この部屋に居る誰一人答えられやしない。
 ただ、小さな隙を見逃さなかった者もいる。
 ハリの呼吸が僅かに乱れた一瞬を、ジュリアンは冷静に俯瞰していた。

「ご心配には及びません」

 全てを打ち消す様にさらりと言葉を返すも、案の定ラインアーサの眉根が寄る。

「──だったら、その〝ある方〟とは誰なんだ?」

 ラインアーサは一歩、踏み込んでくる。
 ぴんと張る空気───だがハリは、瞳を逸らさず静かに答えた。

「お答えする、義務はないかと」

 整えた態度でそれ以上の言葉を拒んだ。
 またもや沈黙が落ちる。

 この一部始終を、少し後ろの位置でジュリアンは見ていた。口を挟むことはしない。ただ、静かに集中しながら。

(なるほど、ね……)

 どの言葉が真実で、ハリが何を隠したいのか。
 全てを見極める様に。
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