アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 静かな拍手が、広間に響き渡る。
 儀が終わりを告げても、その余韻は消えないまま。その中で、粛々と婚礼の支度が整えられていく。

 〝国として立つ日〟と〝共に歩むことを誓う日〟。
 ふたつの始まりが、ひとつに重なる。


 楽の音が満ち、扉が開く───。
 光の中に現れたイリアーナ。白と金の装いに包まれたその姿は、気高く、けれどどこかやわらかい。長い時間を越えてきた人だけが持つ、しなやかな強さがあった。その隣にラインアーサが立つ。
 一歩、踏み出す。
 並んで歩く足音が石の床に淡く響く。

(姉上は、ずっと前から強かった)

 隣を歩きながらラインアーサは思う。
 どんな時も明るく、誰よりも前を向いていた事も。虚弱な母と幼かった弟を守る為に、自分を後回しにしてきた事も。全部、知っている。

(でも──)

 ふと、ほんの僅か手に力がこもる。

(もう、支えなくていいんだな……いや、支えてもらってたのは俺の方だ)

 歩みは止まらない。
 けれど、その意味は少しだけ変わっていく。

 〝連れ出す〟から、〝見届ける〟へ。

 やがて歩みが緩やかに止まる。
 視線の先には、ブラッドフォード。
 どこまでも穏やかな眼差しで、まっすぐに待っている。
 ラインアーサは小さく息を吸った。そして───そっと手を離す。

「ここからは……」

 言葉はそれだけ。
 イリアーナは言葉の代わりに微笑みを返すと、振り返らずにそのまま一人で一歩を踏み出す。
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