アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 その様子を少しだけ見つめていたスズラン。
 自分もまた、守られるだけではいられないのだと静かに思いながら。
 リーナは最後まで明るく振る舞おうとしていた。

「すぐに戻ってきてくださいね! せっかくスズラン様と仲良くなれたのに……」

 不満をこぼしつつ笑顔を見せるも、目元だけが少し赤い。

「……リーナ」

「約束、ですからね」

 祈る様に両手を包み込むリーナに、スズランは小さく頷く。───帰る場所があるという事の、あたたかさを感じながら。
 リーナの声が落ち着いたあと少しだけ間を置いて、ジュリアンが一歩前に出る。

「準備は万全です」

 簡潔に告げる声は、場の全員に向けられていた。視線はラインアーサ、そしてスズランへ。

「お二人とも、安心してお任せください」

 揺らぐ事のない頼もしい声。
 ラインアーサが小さく頷く。

「……ああ、頼む」

 静かに一礼し、元の位置へ戻るジュリアン。
 その佇まいは変わらず落ち着いていた。
 守るべきものも、やるべきことも、ジュリアンの中ではとうの昔に定まっている。
 ただ一人───。
 ハリはこの場に置いても未だ、周りの空気に馴染めずにいた。何も言わず、何も求めず。
 その視線だけが定まらない。自分には与えられなかったものを、捜し求めるかの様に。


 荷は整う。夜は静かに更けていく。
 仰ぐ(そら)には、まだ見ぬ土地の気配。
 遠くへ続く旅路の、かすかな呼び声。

 それぞれの胸に灯るものは、少しずつ違う。

 守りたいもの。
 確かめたいもの。
 手に入れたいもの。

 それでも───同じ船に乗り、同じ海へと漕ぎ出す。その事実だけが、静かに彼らを結びつけていた。




 第一章  ⌘ 励行と新たなる啓行 ⌘  終
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