アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
「時を計る事は勿論。遠く離れていても──声を繋げることができるんだ。そして、これと同じ物を陛下にもお渡ししてある」

 簡潔な説明。だがその視線は一瞬だけ長く留まる。───かつて、届かなかった声があった事を知っているから。
 まだ改良中との事だが、オゥレガリアの地下都市で独自に生み出されたというそれは、鉱石に煌像術(ルキュアス)煌素(ルミノ)が込められている通信器具(アーティファクト)だ。
 ラインアーサはそれを受け取り、軽く握りしめた。掌に収まるその重みは、不思議と心を落ち着かせる。

「ありがとう兄上……大事に使うよ」

 短く、それだけ。けれどその手は少しだけ強く閉じられていた。
 ライオネルは案の定何度も念を押した。穏やかな口調のまま、言葉だけが少し多い。

「定期的に連絡を入れること。状況が変われば、すぐに報せるんだ……いいね? 必ずだ。それに、もし怪我や体調を崩したら即座に帰国を……」

 その裏にあるのは王としてではなく、ただ送り出す父親としての不安だった。

「分かってるよ、父上は相変わらずだな。まあ、姉上を捜しに国を出る時はもっとすごかったけど」

 苦笑いするラインアーサにイリアーナは、焼き菓子の包みをいくつも持ってきた。

「道中、みんなで食べるのよ」

 やさしく微笑みながら、そっと手渡す。イリアーナはその手で無意識に腹部に触れた。守るものが増えたからこそ、送り出す不安もまた増えているのだろう。
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